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□幻影
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青い光を振りながら、
いるはずのない人の名前も呼べずに私はひたすら泣いていた。
─永云………代わりに見に来たよ
あなたの愛した青の光景。
『─1度でいいから見に来いよ』
「……ホントだ、」
すごい綺麗で、
海みたいなんだぞ!って、
なんであなたがあれほど誘ってくれたとき、どうして私は素直にあなたと見なかったんだろうね…。
毎回ちゃんとチケットをおさえたからって、永云は律儀に私に送ってくれた。
でもそれを使って入るなんて……もっと必死に彼らを見たい人たちがいるのに、彼氏・彼女の特権なんかで簡単に見に行っていいのかな?ってずっと戸惑ってた。
そんなことを言えば、
『─姫はバカに律儀だ。』
他のヤツの彼女はみんな当たり前に来てるのに〜と、永云は寂しそうにして拗ねたけど……
あなたを独り占めしている自信が私になかっただけだよ……。
もし、これからいろんなことが起こって別れたとしたら〈こんな女に何年を無駄にしたのか……〉と、あなたに思われたくなかっただけだよ……。
せめて、手のかからない女でいられたら…永云が私を忘れるのも楽でしょう?
リョウク君のピアノ、
キュヒョン君のクラリネット、
イェソン君のチェロ、
ドンヘ君のフルート、
ソンミン君のトロンボーン、
1人1人繋いでいくこの曲が、
始まる前に彼らが言っていたパフォーマンスの正体だと知る。
『姫ヌナ、初めてなんだからよーく見ててね。』
『そうそう!俺らのエアーオーケストラ!!』
5人が公演前に含みをもった笑いで、私にグッズのタオルを手渡してくれた。
なんでも、
私を絶対に泣かせるんだって。
『何?なんか悪いこと?!』
『しないですよ、ヨンウニヒョンに殺されたくないです。』
あれはどういう意味だったのだろう、と思ったら……それまで客席から響くことがなかった声が聞こえてきた。
『カンイ─────ンっっ!!』
『ヨンウ──────ン!』
『やだ泣いちゃう…会いたい!』
メンバーのエアオケの盛り上がりとともに、涙まじりの彼を呼ぶ声が大歓声に変わっていく。
「なんで?!え?」
眼鏡!と、慌てて手探りでバッグから眼鏡を取り出して顔にあてがう。
─────────!?
背景の大きなスクリーンに永云の姿を見つけた。
メンバーの周りで白く揺れ動く影のような存在が、彼の姿だったのだと知った。
メンバーと一緒になって空でバイオリンを弾いている。
にこりと笑うあの優しい目が、そこに大きく映っていた。
『サランヘ!ヨンウ────ン』
嗚咽まじりの声まで聞こえる。
ここにはない彼の姿を待ち望んでる彼女たちの声が大歓声になって、永云にラブコールを叫んでいる。
永云、
すべての青があなたを愛してるのね。
慌ててタオルを出して、涙を拭った。
彼らが言っていたとおりになってしまったのは悔しいけど……
見透かされてる、きっと。
この青を目にしてしまったら、離れることなんて覚悟できない。
永云の愛を預かってるのは私だものね。
「あなたを愛するELFが、私も大好きよ………」
だから、
早くこの青を抱き締めに戻ってきて…
End...
20110222