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□so far...
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『ねぇ………バレて騒ぎに巻き込まれるとか、私、ごめんだからね!』







会場前、現在15時。

もう開場を待つ列は長く長く始まっていた。



アリーナの建物が見えてくるまでは、ジョンスオッパに腹巻き買ってもってこいって言われたから〜とか呑気に荷物をガサガサしながら歩いてた姫が、会場付近から始まる熱気やらざわめきやら大量の人の群れを見つけて唖然とする。

あれに行くの?と、俺の上着の袖をピシピシ引っ張って、うん。入場はヒョンが待ってる裏手だけど…席はアリーナに用意したらしい。と答えを聞けば、よけいに彼女は固まった。





『ヒチョルオッパ最悪!キボムがバレたら大事になるじゃない!!』

『うん、姫のことも大事になるよね。』

『じゃあなんで普通にアリーナなの?!』

『えー…………関係者席なんて見ててもつまらないから、最高の席で俺からのサービスを受けろ!って。』



へらへら笑いながらヒョンらしいだろ?と言えば、信じらんない!と姫は呆れた顔をみせた。

いいからいいから、と彼女を引っ張ってマネージャーヒョンの待つ裏手へ向かう。





裏手から入ったものの、同じメンバーなのに出演者ではない俺。

あんまりメンバーに会って激励するってのも性に合わないし、姫も連れてきてるからまた夫婦そろって旅行ですか!?とからかわれるのも癪だし、挨拶は終わってからにしよう〜ってことでスタッフルームの隣室でひっそりと待つ。

多分、メディア・報道関連はすでにカメラ位置とかスタンバイしてるはずだし撮られる心配はないけど、一般人である姫の素性がバレるのが最悪のパターンだから。













───────────







開演5分前にヒョンに言われた席へ行くと、

─やばいな、最前列かよ。



すでにほぼ席は埋まっていて、後から入る俺たちの方が目立つ感じだった。

マネージャーヒョンたちに手渡された青いライトを持って、俺はキャップを深くかぶりなおし、同じことを思ったのか姫が振り向いて俺の露出具合をチェックした。








キャァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア



着席して間もない暗転。

姫は俺をチラッと見てにこりと微笑みながら手を握った。



あんまりこういう賑やかな場所を楽しめない人種だから、姫の存在はすごく助かる。

いつも俺の気分を盛り上げてくれる、一緒にいて楽になれる存在だ。















─やっぱ…すごいな、





ステージは、普段からよく知るメンバーの顔とはまた別の一面を知ることができる。



ステージでは一際はしゃぐ顔や、

歌いだすとあっという間に人を引き付けてしまう顔、

普段は変なことしかしない人なのにライブとなるとそれも魅力に変えてしまう人、

俺すら知らない間に異常にダンスが格段に巧くなっている奴、

人見知りでシャイだったのに笑顔でペンに駆け寄りペンサービスを頑張る奴まで。



ペンたちが持つ青い光を喜びにも、感動にも、笑いにも変えながらすべてを魅了して攫っていってしまうヒョンたち。





いつのまに練習したのか、日本語でソロを披露するメンバーもいた。



瞳をとじて、

世界にひとつだけの花、

雪の華、



俺自身は聞いたことがなかったけれど、姫は隣でものすごく泣いていた。

オッパたちすごいね!忙しいのに頑張りすぎ!!と、俺の手を握ったまま涙も拭わずにずっとステージを見守っていた。







俺が初めての日本での公演を見て何よりも驚いたのは、日本のエルフの行動だ。





──────────♪






ヒョンたちが舞台から消えると同時にざわめきの中にメロディーがちらほら響きはじめた。

それを後押しするように手拍子が始まる。




《《《さーらんへ!!!!》》》






─Marry U?






よく聞けばそれはMarry Uで。

少しずつ揃い始める歌声がまるで手招きのようにメンバーを呼ぶ。







『すごいね、キボム!』

『あぁ。』

『キボムも歌っちゃう?』

『……はい?』



ビックリして聞き返せば、ウソです〜キボムさんはそんなことしないんですよね〜。と少し不貞腐れたように姫はうつむいた。



『でも私はキボムの歌も聞きたいよ………』



姫は小さくつぶやく。

キボムの声も素敵なんだもん。と、すごく小さく。







『そうするか!』

『────え?!』








久々に歌うMarry Uは、自分自身も苦笑いしてしまうほどに歌詞がうろ覚えで。

一緒に歌ってくれた姫が近くのペンから歌詞カードをもらってくれるほどだった。



俺のパートもともとないから、仕方のないことなんだけどね。(言い訳)







何度も何度も繰り返して歌い、再びステージが暗転するとまた割れんばかりの歓声に包まれた。

曲が流れだして、野菜の着ぐるみたちがヒョコヒョコと登場してくる。



─ヒョンたち、愛されてるなぁ〜



また少し遠く感じて、しんみりしてしまう。

知らない曲も、メンバーたちの知らない顔も、ここ何年かでかなり増えた。



俺が来てることにちらほら気付きだしたメンバーが、自然と俺の席のほうにもサービスしだす。

人気のアイドルなのに、アイドルらしからぬ変顔してみせたりして……まったく。















『あ!キボム!!ほら!』



メインステージ後ろの画面をパッと見れば、ヒチョルヒョンが俺のおめんを持って、アピールを始めた。



─嫌がらせか?笑






知らない間にずいぶん離れてしまったと思っていたが、俺のおめんをメンバーたちが次々に名前を呼んでいじる。

いじる。

いじる。

いじる。

もみくちゃ。



あ!キュヒョナ!
叩くなよ!!









─愛されてるのは俺も一緒か……





すべての公演を終えて日本エルフに手を振ってステージから消えるヒョンたちを見て、俺はこのあと挨拶に行くのをやめようと思った。



絶対に、泣いたとこをからかわれるのは嫌だからな。



End...
20110226
 

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