sss

□all for you...
1ページ/1ページ







『行ってらっしゃい!』



と、見送るのももう何年が経つだろう…。
急にしんみりした気持ちに、そんな気なかった心が張り裂けそうになる。

Super Juniorの担当になって4年

何もかも慣れすぎて、男の子同士の話をしてるときでも平気でいられる。
たぶん…女の子だとも思われてないかな。

─"見慣れたスタッフの1人"

なんて、そんなとこだろう。








いくつもの逞しい背中の中に、一際大きな気持ちを込めて………




バシンッ



両の手のひらを強く押し出した。
周りのオッパがビックリしてこっちを見たけれど、私がやった音だと知れば、またやったな!といった顔で前を進む。

たった1人、
やられた人間を除いて。




『痛ってぇな!姫!!』

『行ってらっしゃい、ドンペオッパ!!』



"ぺ"じゃねぇだろ!

ブツブツ言いながらスタンバイに向かうオッパ。
その肩を抱くようにしてきたヒョクオッパが、チラリと私を振り返ってにやっと笑うと親指を上に立てて見せた。



─"ドンヘには知らせず、お前から笑って離れたほうがきっとラクになれる。"

私のためを思って、そう言ってくれたヒョクオッパ。














バイバイ、ドンへオッパ。

いいステージを!!






















──────────────






『……私、ですか。』





上司にそれを言い渡されたのは、1週間前。



─事務所全体の大規模な日本進出のために、韓国でのノウハウを日本で活かしてほしい。

つまり、所属アーティストが日本活動時の全体的なサポートをしろということであって…今までのようにオッパたちと寝食をほぼ毎日のように共にして、嬉しいことや悲しいことを共有できなくなる、ってことだ。

それを告げられてから、私はというと…寂しげな表情を隠しきることなんて出来ず、あっという間にオッパたちに読まれてしまった。
そして、オッパたちは誰もが《ドンへには自分から伝えるなり何なりしろよ?》と言った。

そのくらい私の気持ちは周知の事実なのに、あのチャラ男だけは気付かない。

顔を合わせるたびにギャーギャーと口喧嘩…売り言葉に買い言葉してもその裏側で、どれだけ私の心がオッパに期待や失望させられてるかなんて。



そんな中でヒョクオッパが教えてくれたんだ。

─ドンへがどんな気持ちで姫を引き留めるか分からない。愛情ならいいけど…友情かもしれない。それならドンへには何も言わずに、姫の中だけで整理をしてドンへを封印したほうがいいと思う。笑って離れた最後なら、お互いに気持ちも晴れるはずだ。





















────────





─本当だね、ヒョクオッパ。



いつものようにドンへオッパは私の悪口を言って、見とけよ!と後ろ手に手を振ってくれた。





─うん、ずっと見とくよ!

私が、オッパを忘れられるわけがないよ。




























───────────────





これから北京にまっすぐ向かわなくてはいけない。

忙しいのは何よりだけど、またこれで韓国の宿舎生活はお預けか…と思うと少し気分が萎れかける。




『姫、俺のパスポート…』

『あ、ドンへ………』



ちょうど真後ろにいたソンミニヒョンが、俺の手にパスポートを乗せた。



『?……なんでヒョンが?』

『あー…うん、朝、姫から預かった。』

『預かった?…姫、今日韓国入りだっけ?』



あー…うんとね…、

歯切れの悪い返事しか帰ってこないヒョン。



そういや、姫は昨夜の打ち上げにも姿を現さなかった。
今朝、起こしにきたのは下っ端のマネージャーだったし…北京に行ってからの予定もそいつから聞いた。

姫の仕事がことごとく違う奴に変わっている。



パスポートを受け取った手がやけに汗ばんできた。








『姫は昨日が最後だったんだ。』



日本の事務所に残ることになったんだって

ヒョクチェが仕方ないな、って顔をして言った。



『俺、聞いてないけど!』

『俺が言わないほうがいいって姫に言ったから。』



お前がその気持ち、まだ自覚出来てないみたいだったから…

と、ヒョクチェが言えばソンミニヒョンもリョウクもキュヒョナも頷いた。
















───────────♪






電話が鳴った。

ナイスタイミングで姫だった。






─もしもしドンへー?

『ドンへじゃねぇ!!』



呑気な彼女の声に苛立って怒鳴り付ける。
リョウクがあわあわしながら、ヒョン落ち着いて!と俺を宥めた。






─ごめん、ドンペ。

『お前、どこいんの?』

─……まだ同じ日本でしょ?

『あーもう、茶化すなよ!』



いつも些細な言い合いばかりしてきた結果がこれだ、肝心なときになっても姫からちゃんとした本音を聞き出せない。












─そんな悲しそうな声が、聞きたいんじゃないのにな。

『姫?』

─ドンペオッパ、また会おうね。

『日本に来たら真っ先にお前に知らせるし!』

─やだなぁ〜……全世界の青い女の子がみんなドンペの彼女なのに。私、刺されそう!私もドンペオッパに片思いなのに〜




ケタケタ笑う声が耳に響くと、あの満面の笑顔だけが浮かんでくる。

俺にばっかりイタズラしては返り討ちに合って、ちっとも素直じゃないし、美人でもないし、可愛げもない、

でも、愛しい彼女。











『姫、携帯に顔を思いっきり近付けろ。』

─は?

『いいから。』



─こういうことかな?






俺は携帯にめちゃくちゃ唇を寄せてチュッと派手な音をたてた。

ヒョクチェは口笛を吹いて、ソンミニヒョンはわぁ!と手を叩いて喜んだ。
リョウクはゲームに夢中のキュヒョンに状況を説明して、それを知ったキュヒョンはゲームに向かってニヤリと笑う。









『全世界の彼女が欲しがる俺の愛情、全部を姫にくれてやる!』





えっ?えぇっ?!と、戸惑い気味の声をあげる姫を無視して

『じゃあな!』

俺は電話を切る。






空港内で人目もはばからず、派手な熱愛宣言。

誰になんと言われてもいい。





俺のすべてが、姫…

お前のためにありたいと願う。





End...
20110301
卒業の季節。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ