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早々とホテルに戻って、戻るなりベッドに倒れこんだ。
日頃から体力はあっても補いきれない疲労困憊の身体は、あっという間に深く深く眠りの淵へと沈んでいく。
─珍しいな、シウォニがここまで体調崩すなんて。
俺なら一発で病院行きだけどね〜と、イトゥクヒョンが茶化しながら背中をさすってくれて…アンコールも立ち上がれない俺に、最後の挨拶に呼ぶからチョウミたちと出ておいで。と、久々に聞く兄さんらしい声だった。
情けないな…俺。
今回の来日も久しぶりのことで、少なからず俺のことを待っていてくれたペンたちもいたというのに…無理に無理を重ねて仕事をしていた結果、こんな力のない無様な姿しか見せることが出来なかった。
忍耐は俺の専売特許だけれど、それが祟って今はこんなザマ……完璧に俺のセルフコントロールミスだ。
メンバーたちはみんな俺の体調不良を珍しがって、だからこそ物凄く気遣いや労りや優しさを見せてくれているけれど、俺にはそれすら申し訳なく…ひどく情けない気持ちになる。
最悪な結果だ。
それもすべて俺が招いたことなんだけど………
─prrrrrr……………
ベッドに倒れこんだ拍子に俺の手を離れた電話が、ベッド脇でキラリと光った。
─メシ食い終わったのかな……
メシも食ったしこれから帰るぞ〜!って電話は海外に関わらずよくあるが、俺がホテルに着いてからまだ間もない。
─俺の体調を案じての電話だろうか?
でもメンバーたちはみんな、早くホテルに帰って今日はゆっくり寝ろ!と言っていた。
俺に連絡があるとしても多分、起こさないようにとマネージャーヒョンに先に連絡するはずだ。
『…………はい、……誰?』
思いどおりにならない身体を引きずって、俺はなんとか電話に手を伸ばす。
酷い有様に自分でもがっかりする
こんな無愛想な声で電話に出るなんて、普段じゃ絶対にしないことだ。
─…あ、ごめんなさい。姫です。……シウォニ?
その声に俺はハッとした。
そうだった…彼女を招待していたんだ、と。
日本に住む彼女…姫とメールを始めたのはもう7年も前の話だ。
メール友達、なんて言うとなんだか軽薄なイメージだけれど俺と姫はそれ以上でもそれ以下でもない。
単純にメールをやりとりするだけの関係で7年も繋がっていた。
本当はもっと早く、俺の正体を話すべきだった。
芸能人だと話してしまうと今までの関係が壊れてしまうような気がして、何度も日本に来ているのに彼女には何も告げずにいた。
"─姫、……俺に会ってくれないかな?"
今回、どうして彼女を招待したかと言うと…姫に今度こそ俺の姿を見てもらいたかったから。
これからもっと海外活動の幅が広がっていくことを考えると、姫に会いに来る機会も少なくなる…。
そして。
『ごめん。申し訳ないけど、これを最後に友達でいるのを終わりにしよう。』
今回、部屋まで来るように姫に言っておいたのはそれを告げるためだったことを思い出した。
『ごめんなさい、具合悪かったなら...こんなの買ってくるんじゃなかった、と思ったんだけど...』
部屋に入るなり姫が見せたのはそこそこ大きめの箱。
その中身は案の定...
『ごめん、他の方とも一緒に食べてほしいと思って...ケーキ...』
顔色の悪い俺を見上げながら姫はもう一度、ごめんなさい。とすまなそうな顔をしてみせた。
初めて二人きりで顔をつき合わせて話しているからか、部屋の中が薄暗いオレンジに包まれているからか、姫と俺の間には変な緊張感が感じられた。
そんななかに、キラリと光るのを見つけて俺は視線を移す。
『...それ、』
彼女の薬指だった
一言も話してくれたことがなかったから、その薬指の存在は一気に俺の胸にじわり...と黒色の滴で蝕み始める。
『...うん、内緒にしててごめんなさい。これ...へへへ』
赤らめた頬を隠すようにうつむいて、姫は愛おしそうに銀の指輪を指でくるくるさせた。
―そうだったんだ、言ってくれればお祝いしたのに!
早く笑顔でそう言ってあげるべきだった。
その優しく微笑んだ先には彼女の想う人がいるのだろうから。
でも、現実は違った。
『棄てろよ、...棄ててくれ。』
俺の一言に戸惑って、凍りつく姫の姿があった。
『俺を必要としてないなら、友達でいても仕方がない。...棄ててくれよ、俺を』
こんなつもりじゃなかったんだ。
今夜はみっともない俺ばかりで、俺自身が消えてしまいたいと思った。
『...どうして格好つけるの?』
彼女から返ってきた言葉に俺は顔をあげた。
なんでも完璧じゃなければ、満足できないの?と、次いで言われた言葉は確実に俺に突き刺さる。
姫がこんなに辛辣な言葉を並べるのはじめてだった。
まるで彼女の子供にでもなって叱られた気分で、子供じみた真似をしていた自分が余計イヤになる。
『みんながみんな...完璧なあなたを望んでるわけじゃないよ、弱くてもいいよ。』
立ちすくんだ俺を姫がぎゅっと後ろから抱きしめた。
その瞬間、忘れていた熱のせいか身体が急にバランスを失う。
―?!
倒れるか?!と思ったけれど揺らいだだけで俺はまだ彼女の腕の中にいた。
『私でよかったら、ちゃんと支えててあげる。私とシウォンは半分ずつ、なんだよ?忘れたの??』
彼女が薬指の指輪を見せた。
よく見れば見覚えがある、古びた指輪。
―『ボクのひみつのたからもの、。ふたつあるから...』
その指輪は、祖母がまだ子供だった頃の俺に”大切な人と自分を繋ぐために使いなさい”、と手渡してくれた古いものだった。
日本に家族旅行にきたとき、デパートで出会った迷子の女の子とその子のお母さんを探していて...結局、俺も迷子になったときだ。
迷子になるなんて初めてで、最後には俺が泣きわめいてどうしようもなくて...その子しか頼れなくて俺はぎゅっとその子と手を繋いでた。
二人とも両親が迎えにきても今度は離れるのが寂しくて離れがたくて...
―『これあげるね。ボクのだいじなものなんだ。ひとつ...きみに』
思い出した。
―私達、ずっと繋がってたんだよ?
姫はそう言って俺の背中に顔を埋めた。
やっと、見つけてくれた。
そう思ったら涙が溢れた。
自分でもおかしくて、困ってしまうくらい泣いてしまった。
俺は姫を抱きしめ返して安堵のため息をついた。
...初めての感覚、とは少し違う懐かしさを感じた。
『俺って、困った奴だな。』
『...ふふ。今ごろ気づいたの?...鈍すぎるわよ。』
End.
Thanks!n merryX'mas!