「座れ!カーダも座れ!」

連れてこられたのは森の奥の不自然で無い程度に開けた空間。明々と燃える火の前にバンパニーズが一人横になっていた。地面に寝転がったままこちらを見上げられて居心地の悪い感じを味わう。

「どうしたグラルダー?」
「前に話しただろ。こいつがカーダだ。」
「ああ。いつもの『いつか王子様が』か。悪ぃ、正直お前の妄想かと思ってたよ。」
「そんな話は一切してねぇ!散々話しただろうが!バンパイアとの和平の話だ!」
「あーそうだっけ?」
「殴れば思い出すか?」
「冗談だって、そう怒るなよ。マジにするなよ。感動の再会が済んだんならこれからの話でもしようぜ。」

よっこらしょと言いながら起き上がるグラルダーの相棒は陽気なバンパニーズだった。
事態の急展開についていけず、唖然とする事しか出来なかった僕は促されるままに焚き火の前に座った。カーダは一度ためらう素振りを見せたが結局僕の隣に、グラルダーは焚き火を挟んで僕の正面に、もう一人のバンパニーズはグラルダーの後ろ、少し離れたところに腰を下ろした。

「さて、まずはカーダにきちんと自己紹介しておくか。」

警戒を解かないカーダに対して話し合いの口火を切ったのはやはりグラルダーだ。

「俺の名前はグラルダー。ファミリーネームは捨てた。見ての通りバンパニーズで、そのくせバンパイアと手を結ぼうとしている変わり者で、ダレンとは旧知の仲だ。」

呆れるほどフランクな話し振りとその中身にカーダはもの凄く驚いたようだった。グラルダーのセリフの最後の部分を確かめるように僕の方を向く。でもそんな目で見られたって僕だって今の今までグラルダーの事なんて知らなかったんだから勘弁して欲しい。

「カーダ。グラルダーはね、前に話した僕の過去でカーダと一番仲が良さそうなバンパニーズだったんだ。」
「バンパニーズの中で和平派を仕切ってたのは俺だからな。」
「何でかは分からない、っていうかでも多分ミスター・タイニーの所為だけど僕と同じように『前回』の記憶を持ってるみたいで」
「おおバッチリ。ハッキリ覚えてるぜ。因みにタイニーの野郎はお前に干渉するのは懲りたみたいで、別のところから和平への道をぶち壊そうと絶賛画策中だぜ。俺もここに連れてこられる前に散々『カーダは裏切った』だの『バンパイアに仕組まれていた』たの吹き込まれたもんなぁ。」

僕の話を遮ったグラルダーは胡坐をかいたままケラケラ笑った。
どうしてだろう。

「グラルダーは信じなかったの?」

タイニーはいつも大事なところを隠してわざと相手が勘違いするような話し方をする。僕たちだって何度それで煮え湯を飲まされたことだか。疑心を生むように、不安を煽るように、希望を持たせるように、タイニーは巧妙に手を打つ。タイニーの企みに惑わされないようにするのは本当に難しく、なのにグラルダーは僕達の前で笑っている。それが不思議でならない。

「信じたさ。」

視線が正面からぶつかる。一瞬のはずで、だけど僕にはとても長く感じた。それからグラルダーは優しく笑うように息を吐き、目を逸らした。いや、そうじゃない。僕から目を逸らしたんじゃなくカーダを見たんだ。

「カーダを信じた。あいつが俺を裏切るはずが無い。そのぐらい知ってなきゃ、総会中のバンパイア・マウンテンなんて乗り込めねーんだよ。」

絶対的な信頼。
グラルダーの言う通り、それほどの覚悟を持って彼らバンパニーズはバンパイア・マウンテンにやってきたのだろう。それを僕が台無しにした。

「おい、ダレン。勝手にへこんでんじゃねーぞ。で、カーダが裏切ったてとこを抜かして話を聞くと悪役なんて簡単に見えてくるのな。」

思わず顔を上げた。

「ダレン、『お前は悪くない』なんて言わない。だけど俺はそれ以上にタイニーの野郎の方が許せない。俺は死にたくないし、仲間のバンパニーズも死なせたくない。カーダも死なせたくないし、全面戦争なんでまっぴらだ。」

嵐のように吐き出された言葉は紛れもなくグラルダーの本音だろう。

「だから俺はカーダに協力する。」

紫の右手が伸ばされる。カーダがそれ取ると、グラルダーは逆の手で僕の手を二人の握手に重ねた。


「今度こそ成功させるんだ。」

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