はくしゅろぐ

□古今東西
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古今東西、




部屋のドアをノックする。

「おい、時間だぞ」

「まって!まだできてない!」

とゆう会話を既に五回繰り返した。

もうこれ以上待っていられないと、ドアの向こうに声をかける。

「もう行くからな」

すると、ドアの向こうから慌てる派手な音がして、
バタンと飛び出してきて
そうしてスーツケースの上にどっかりと腰を下ろした。

「どう?」

どうと言われても。
確かにこれでは先に行くことはできない。

それにしてもなんて格好だ。
バスローブのままで、髪も乾かしていなくて、化粧は途中。
素足のままでとりあえず履いてきたヒールだけが、申し訳程度に完成している「身支度」

だいたいあれだけの時間があったのに、そこまでしか進んでないのか。
古今東西、女子の身支度は時間がかかるもの、それを待つのが男の甲斐性。

が、それにも限度があるのだ。

そもそも化粧をしてもしていなくても、変わらないじゃないか。
一度そう言ったら、ひどく機嫌を損ねられた。
「おなじだなんて、ヒドイ!」
せっかくキレイにしようとしているのに、と怒られた。

化粧をしてもしていなくても、変わらないじゃないか。
お前はお前で変わらないし、化粧をしていなくてもキレイじゃないか。

古今東西、男と女の美意識は違うのだ。


あきらめて、スーツケースの上で化粧をする彼女を見ていた。
彼女は置いていかれるのを阻止できたので、ひどく満足そうな顔で、鼻歌すら歌って化粧をしている。

「どう?」

そうして買ってやったばかりのルージュで塗ったばかりの唇を突き出してくるから







「……あーあ、やりなおし」

彼女は嬉しそうに笑った。

「あなたのせいで、また遅くなっちゃう」

確かに。何をやっているんだ、俺は。

彼女は勝ち誇ったように笑った。
自分が遅れていたのを棚にあげて、全ての原因を俺に押し付けて。
唇のままの色の唇で、きゅっと口角をあげて笑った。



結局、古今東西、男は女に勝てないのだ。



「今日はもう出かけるのはやめよう」

「怒ったの?」

「いや?」

彼女の右手から、ルージュを取った。
彼女の左手から、手鏡を取った。

「お前が完成するのを待つより、最初の状態に戻すほうが早いだろ?」


苦情を言う前に唇をふさいだ。

「……」

彼女は右手で、右のヒールを脱いで床に落とした。
彼女は左手で、左のヒールを脱いで床に落とした。

それを合図に彼女を抱き上げて、ドアの向こうに戻る。


古今東西、男と女はそこから始まる。














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デジタルフォトテクニック10月号の村尾昌美さんの連載「かりそめの一夜」より。


立ち読みだけでもいいんでしてください(笑)


もうあの写真がツボでツボで、かわいくてかわいくて、
もだえた結果がコレです(笑)

バスローブだの、スーツケースだののアンバランスさと。
だらしないみずなつき、ってのも萌えるかなぁと。



お相手はお好きな方で想像してください(笑)


女子になったチカさんにこういう萌えが発動する日がこようとは……っ!(笑)


お読みいただきありがとうございました。


2012.09.24
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