はくしゅろぐ

□仲秋の名月
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月がきれいだから一緒に見ようと突然呼び出された。




「月がきれいですね」


その昔、かの文豪は『I love you』をそう訳したという。


その符丁に気づいて、ぱっと頬をあからめるも、
そんな符丁には気づかれていないし、
この暗闇で赤いほほには気づかれていないから、

「月がきれいですね」

「うん、まんまるをみていたらみなこを思い出しちゃって」

「え?」

「あはは、冗談冗談」

水さんの笑い声がからりと月夜に吸い込まれていく。

そうしてまたふたりで夜空を見上げる。




「……月は、みずさんみたいですね」

「え?あたし?そんなに丸くなった?」

慌てる水さんにゆっくりと首をふった。

だって
この、澄んだ空気に浮かぶ、あたりをなぎはらうような、白い強いひかりは、
虚空に孤独にうかぶ、ただひとつの天体は


こわいぐらいにきれいで

そのあたたかいような、厳しいような、その強さは




まるで、水さんだと思ったのだ





あ、三日月に似てるってこと?とひとり納得をしている水さんに
この思いをどうやって訳せばいいのだろう



「月がきれいですね」

それ以外の言葉を思いつかなかった。




そうしてまたふたりで夜空を見上げる。

「月がきれいですね」

「うん」

「月が、きれいですね」

「そうだね」

「月が……」

「みなこ」

指先をからめとられた

「わかってるよ」

「………」


この月明かりが水さんの少し赤くなった耳をわたしに見せているのなら、
わたしの赤いほほも隠れてはいないのだろう


繰り返す愛の告白に、いまさらながら、さらに頬が熱くなる。


「"月がきれいですね"」

「は、はい……」

「"月がきれいですね"」

「……はい」

くすくすと笑いながら、愛の告白が繰り返される。
それが、冗談ではないことが、指先が教えてくれていた。





月明かりのあかるい夜に、いつまでも繰り返される『I love you』














++++++++++
かの文豪、夏目漱石が訳した『I love you』の話は有名かと思います。
そんな逸話と、みずみなを混ぜてみました。



書いていてすごく楽しかった!!!!!!
いやあ、みずみなっていいですね!


本日、仲秋の名月。
またしても自分を縛るイベント更新です(笑)
残念ながら台風で今夜の月は拝めないかもしれませんが、
昨日の十四夜の月もとてもきれいでした。


お読みいただきありがとうございました。



2012.09.30



→おまけを書きました。
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