はくしゅろぐ

□雨の日の詩人営業中
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『give&give,take&take』




「……み、ず……」

ベッドに伏せたまま、くぐもった声がした。
あいにく、冷蔵庫によく冷えたミネラルウォーターしかなかった。

それを手にして部屋に戻る。ちらりとこちらを見た顔が、少し曇ったけれど

「チカさん」

前に教えられた通りに、キャップを開けて、自分の口に含む。
冷たい刺激がゆるむように、私の体温を移すようにしてから、口移しでチカさんに飲ませた。

こくり、と喉が動く。

「……ありがと」

乱れた前髪の奥の目が笑った。
いたたまれなくなって、私は言った。

「ごめんなさい」

情けない。止めることができなかった。今日も。
冷たいものは決して口にしないように気をつかっているのに、
今も身体が資本であることは変わらないのに、声嗄れるほどに抱き倒してしまった。

声が嗄れることを怖れて、声を出さずに噛み締める唇の代わりに、私の指を差し出した。

けれど首をふってそれを取ろうとはしない。

耐えきれずに喉の奥から漏れる喘ぎが、まるで嗚咽のようになき続けていた。

けれどもそうして眉を寄せてこらえる姿に私がさらにあおられて。

せめて背中に爪を立ててくれれば、私に痛みを与えてくれればいいのに。
昔より伸びたその爪は、指先が白くなるまできつくシーツを握っていた。

そして声なく果てるまで、抱いた。

まるで盛りのついた猫みたいだと自嘲する。
最近、とくにひどい気がする。
ベッドのしたにぺたりと座ったままうなだれていると

「なんで、あやまるの?」

その声がいつもより少し嗄れている。
いつも少し嗄れた声ではあるけど、それぐらいすぐに気付く。

ああ、やってしまった。
でも止められなかった。

「……逆だったら、あたしもおんなじようにしていたよ」

逆?
チカさんが私よりとししただったら?
チカさんが私を抱いたら?

「……」

違う、チカさんにはわかっているんだ。
この花園からチカさんが去ってから、私の渇きがひどくなっていることを。

どうしてなんだろう。
もう同じ舞台に立っていたのはもうずっと昔のことなのに。
離れていたのも会えないのも、組み替え後は珍しいことではないのに。

でもチカさんにはわかっているのだ。それゆえに、私が狂おしく求めていることを。
奪い尽くそうとしていることを。

逆だったら、
もし旅立ったのがチカさんではなく私が先だったら、

同じようにチカさんも渇き、狂おしく求め、奪い尽すと言うのだろうか。

けれども今は確かに
私だけが求めて、私だけが奪う




チカさんがベッドの上で起き上がり、私が手にしていたペットボトルを取った。
まだ冷たいですよ、と言うまでもなく、表面の結露がぱたり、とシーツを濡らした。

チカさんはキャップを開けて口に含む。けれども喉は動かずに

「チ…」

チカさんの両手が私の頬を覆い、唇を押しつけられた。
促されるまま唇をひらくと、チカさんの体温を移した水が流れてくる。

こくり、と私の喉が動く

チカさんが私にペットボトルを差し出した。
促されるまま、口に含みチカさんの唇を軽く指でひらきながら、口付けて私の体温を移した水を飲ませる。

こくり、とチカさんの喉が動く



繰り返し繰り返し、私たちは与えあった。

ああそうか、求めるだけではなく、奪うだけではなく
私たちは、求めあい、奪いあい、与えあって、わかちあう

チカさんの舌が貪欲にわたしを求めはじめた。
私が求めたのとおんなじように。



そうして、繰り返し繰り返し、私たちは与えあった。
私たちの体温が等しくなるまで。



【END】
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