はくしゅろぐ

□古今東西
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古今東西、



「おい、いつまで入ってるんだよ」

おざなりなノックと共にバスルームのドアを開けると、立ち込める湯気に一気に視界が曇った。


「まーだ」

うっとりと、甘えた声。しばらくすると、視界がひらけて湯船に身体を沈める彼女が見えた。
やだ、見ないでよ、なんて今更な文句を言うが、彼女の身体はとろりとした乳白色の水面に、顔と肩が見えるだけ。

湯はほんのりと薔薇色で、その香りも実に女子好みの薔薇の香り。


古今東西、女子の入浴は時間がかかるものだ。
そうして男は待ちぼうけをくらっている。

「飽きないのかよ」

「飽きないわ。たのしいもの」

「たのしい?」

「きもちいいから、たのしいわ」

彼女がすっとその長い腕を湯船からだして、ほうとため息をつきながら右手で左腕をなでる。
艶やかな、においたつような二の腕がちゃぷんと水面を揺らしている。
長い足を組んで、ぽこりと水面に見えた膝小僧がどこかおさなく見えるのがまた不思議だった。

「おれはもう飽きたよ」

まったくどれだけ待たせれば気が済むんだ。

「おこってる?」

「そろそろ、怒ってもいいだろ?」

「うん。でもちょっと待ってて。怒るならお風呂から出てからにして」

「あ?」

「だって、きもちいいんだもの。いやな気分にはなりたくないわ」

「はいはい」

減らず口はいつもの事。あきらめてスツールをひっぱってきて、そこに腰掛けた。

古今東西、女を不機嫌にするとろくなことはないのだから。

とにかく彼女はご機嫌で、歌でも歌いだしそうな風情で、うっとりと、自分の身体をなでている。
そうするのが肌にいいそうだ。
全身をくまなく、確かめるように。
その手がなぞる彼女の形は、見えなくて目に浮かぶ。
すらりとした足も、くびれた腰も、肩甲骨のくぼみも。

「たのしいか?」

「たのしいわよ。だって手間をかけた分、キレイになるんだもの」

何度も言いたくないが、そのままだって十分じゃないか。
100%が120%になったところで、俺にはわからないよ、そんな事を言うと

「別に、あなたの為にやってるんじゃないもの」

「かわいくないなー」

「知ってるくせに」

湯船の縁に長い腕を組んで、顔を乗せてこちらを見てくる。

「ね、あなたはたのしい?」

「俺?」

「そうやって、女の入浴のぞくなんて、なんて悪趣味。たのしい?」

唇をきゅっとあげて笑うから。

「そうだな……」

立ち上がって近づく。
目の前に立つと、自然の彼女のあごがくっとあがって、俺を見上げてくる。
艶やかに濡れた目は、顔を近づけると自然に閉じた。

「……たのしい?」

「まあな」

きれいな歯ならびを見せて、目をほそめて笑った。




「ね、あなたも入らない?」

「は?」

「だってせっかくいいにおいになったんだもの。あなたのにおいがつくのやだもの」


このロマンチックな湯船に一緒につかって、薔薇の香りをまとえというのか。
彼女は両手で口元を覆い、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
伺うようにこちらを見た目が、誘うように揺れている。

「わかったよ」

服を脱いで、彼女と向かい合わせに湯船に入る。
彼女の腕が伸びてきて、薔薇の香りで俺を包んだ。









【END】

















+++++++++++++
デジタルフォトテクニック10月号の村尾昌美さんの連載「かりそめの一夜」より再び。


ってもう写真関係ない(笑)

前回の「古今東西」の続きと思ってください。
事の発端はお友達からとても香りと色の素敵な入浴剤をもらったからです。そんなところからつながります。

ポンパドールちゃんが入っているお風呂はこういう感じかと。


(わかりにくいですが奥に湯船があるのですよ)


あるいはこういう感じ?(笑)




もう逃げも隠れもしません(それ前も言った)H&Mです。
(リアクションしずらい開き直りだなぁ)(笑)


お読みいただきありがとうございました。





改めてあけましておめでとうございます。

去年の中秋の名月から更新してないというありさまですが、忘れずに遊びにきていただけて本当に嬉しいです。
更新していない間も、元気よくナツキメイトしておりました。

半解凍して一年半、ちょっとサイトの整理なんぞしたいなぁと思っています。
更新頻度は変わらないと思うのですが、もう半解凍でもないかなと。
その準備をしてから今年最初の更新をするつもりが、萌えが先走ってしまいました(笑)。
そんな「てふてふ*」ではありますが、本年もよろしくお願いいたします。



2013.01.09
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