日常語リ
□桜家
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「涼!」
鈴の転がるような声に呼び止められ、振り返る。
「…妖」
そこには、標準より少し背の高い凛とした容姿の少女がいた。
「どこ行くの?お母さんが読んでたよ」
涼と呼ばれた青年は、少女によく似ていた。
「遥さんが、何だって?」
涼に聞かれ妖は、
「ごめん、聞いてくるの忘れた」
悪びれない笑顔で答えた。
「妖らしいな。わかった、行ってみるよ」
涼は妖の頭をぽんっと軽く叩いて、横を通り過ぎて行く。
ふと、妖の頬がほんのりと朱に染まったようにみえた。
「…ねぇ。ひとつ聞いていい?」
唐突に妖は問う。
「ん?いいよ、なんだい」
気にすることなく請け負う涼。
「その…どうして、お母さんのこと『遥さん』なんて呼ぶの?涼のお母さんでもあるのに」
涼と妖は兄妹だ。ただし異母兄妹のである。
「ん〜…なんとなく」
そう答える涼だったが、どうやら妖は納得しなかったようだ。
それでも妖は、敢えてそれ以上言及しようとはしなかった。
母を名前で呼ぶ理由を知っていたからかもしれない。
「…だって、初恋の人だもんね」
ぼそっと呟く妖。