DRRR*

□やさいをたべよう。
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「臨也」

名前を呼ばれて、俺はそこでようやく今日が何の日かを思い出した。

「シズちゃん」

今日は、唯一確実に、シズちゃんが俺に敵意を向けない日だ。
それから、確実にシズちゃんが俺に会いに来る日でもある。

池袋のど真ん中。
新宿のオフィス。
たとえ何処にいても、必ず。

「ほらよ」
「…毎年毎年律儀だよねぇ、シズちゃんも」

差し出されるのは紙袋。
これも、いつもの事。
中身もいつも通りの物だ。

「一応お礼を言っておくよ。ありがとね」

一言告げて、俺たちは別れた。

◆ ◇ ◆


『臨也』

また、声を掛けられる。
声、と云うか、肩を叩かれてPDAを見せられたんだけど。

「やぁ、運び屋じゃないか」

どうしたんだい?なんて、笑みを浮かべて見せたけど、実は予想はついていたりする。

『新羅から、これをお前に渡してくれ、と頼まれたんだ』

うん、やっぱりね。
差し出されたのは段ボール箱。
これもやっぱり毎年の事だ。
……毎年思うけど、何で段ボールなんだよ、いやがらせか?

「悪いけど運び屋、料金は払うからそれ、俺の家の玄関まで運んでおいてくれないかい?流石に段ボール抱えて電車を乗り継ぐのはちょっとねぇ…?」
『そ、それもそうだな。解った。管理人さんに預けておけばいいか?』
「うん。よろしく頼むよ」

嘶きをあげて走り去って行くシューターを見送って、俺は再び歩き出す。
今日はもう、正臣君達の様子を少しだけ見たら家に帰ろう。

新羅からの届け物の内容は多分いつも通りで、生ものなんかじゃないだろうけど、出来るだけ早く封を開けた方がいいのは確かだからね。

◆ ◇ ◆


「やぁ、帝人君。正臣君、杏里ちゃん。学校は今帰りかな?」

我ながら白々しい言葉を吐きながら、可愛い後輩に声を掛けた。
ま、どうせいつも通り、警戒心むき出しな正臣君と、あからさまな態度こそ見せないけど、面倒な人に会ったなぁ、って雰囲気をにじませる残りの二人に「何か用ですか?」なんて聞かれるんだろうけど。

なんて。

「あれ、臨也さんじゃないっすか。あんた、今日はこんな所にいて良いんすか?」
「門田さんが、探してましたよ?」
「…後、セルティさんも探していたみたいです……」

心底不思議そうな、心配するかのような言葉を掛けられて、俺の予想は簡単に打ち砕かれた。
うん、やっぱりこう云う予想できない所が、人間の面白い所だよね。

「うん?別に、今日は誰とも約束していないし、用事があるわけでもないし。俺がここにいちゃいけない理由はないよね。セルティにはさっき会ったから問題ないよ。……でも、ドタチンも探してくれてるのか…相変わらず律儀だなぁ…」

三人の言葉に帰しながら、俺は思わず苦く笑った。
ドタチンまで毎年毎年律儀に行事を繰り返してくれるだなんて。
本当に人が良いと言うか、面倒見がいいと言うか。

そんな事を考えていると、後ろからクラクションが響いた。

「イザイザはっけーん♪」
「いやいや、ご協力感謝っすよぉ、帝人君」

後部座席から、いつもドタチンとつるんでいる内の二人が顔を出す。
って言うか……帝人君、君、俺を売ったね?
いや、別に良いんだけどさ。ドタチンが俺を探し出してボコボコにする、何て事無いだろうし。

助手席の窓が開いて、ドタチンが顔を出す。

「乗れよ、臨也。ついでに渡草に送ってって貰うからよ」
「え、良いよ別に。ドタチンも毎年のあれだろ?」
「あぁ。でもなぁ…お袋が今年はちょっと張り切り過ぎてな、量が多いんだ。流石にお前一人じゃ運べないだろうからついでだ。特に用がないなら乗って行け」

苦笑いするドタチンに、俺は笑う。本当に人が良い。

「それなら、お言葉に甘えて」

帝人君達に別れを告げて、俺はドタチン達のワゴンに乗り込んだ。

◆ ◇ ◆


車に揺られながら、俺はトランク部分に積まれた発泡スチロールの箱を覗き込む。

「わ。これ…全部俺宛?」
「あぁ…何か今年は気候が良かったみたいでな。お袋があれもこれもって詰め込んだんだよ」
「有難いけど……俺一人で片付けられるかな…」

箱に山盛りになったそれを見ながら、俺は小さく苦笑いを零した。

ワゴンは、俺の住むマンションの駐車場へと滑りこむ。

「運んでやるよ」と申し出てくれたドタチンに甘えて、俺はエントランスへと歩く。
管理人さんに一声かけて、さっきセルティが置いて行ってくれた新羅の荷物を受け取る。

ドタチンの荷物と負けず劣らずの新羅からの荷物に、ドタチンは目を丸くさせていた。

「岸谷の奴も相当な量だな…」
「まぁ、新羅はいつもこんなんだけど。本当に俺一人分って感じなのはシズちゃんからの奴かな」

腕に下げていた紙袋を軽く持ち上げて、俺は小さく笑んだ。そうだ。

「そうだドタチン、良かったらさ。今晩家で鍋でもしないかい?まだちょっと暑いけど…ワゴンにいるいつものメンバーも誘って、さ。」
「良いのか?」
「勿論。…むしろ、来てくれると助かるよ」

エレベーターの中で一旦荷物をおろして、俺は笑う。

「有難いけど、とても一人で捌ける量じゃないからね」
「ま、それもそうか」

有難くご相伴にあずかるよ。

そう言ってくれたドタチンは、本当にいい人だよね。



俺の腕にぶら下がった紙袋からは、ネギが覗いている。


やさいをたべよう。

End.
( 何鍋にしようかな…肉か…魚…………豚肉にしよう。生姜も入れて元気鍋で良いか。)

(おい、狩沢、遊馬崎、渡草。お前たち今晩空いてるか?)
(ん〜?今日は特に用事ないよ)
(夏の一大イベントも終わってひと段落ついたっすしねぇ)
(俺も…特に用事はないな)
(そうか…いま、臨也から誘いが掛ってな。今晩、臨也の家で鍋をするんだが…良ければ来ないか?)
(お邪魔しても良いんすか?!)
(メンバーは私達だけ?)
(あぁ。さっき持って行った野菜の処理も兼ねて、だな)
(迷惑じゃないなら、お供させてください、門田さん)
(俺たちも勿論お伴するっす!)
(うんうん、イザイザのお宅訪問!素敵イベントだよねぇ☆)

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