逆門4

□矢印の向う先。
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アイツを意識し始めたのは、いつからだっただろう。

初めは好敵手だった。(と、言ったもののもとより双方負け試合なのだが)
それが、張り合っているうちに何故か、アイツの一挙一動に目がいくようになって。

それから。

気付けば用もなく他社に赴くのは、想い人の為ではなく、あいつを見る為になっていた。


矢印の向かう


「すみません、営業部の…」
「あぁ、黒さんですね?不壊さん」

受付に足を向ければ、皆まで言う前に受付嬢がにこやかに笑んだ。
その言葉に頷けば、彼女はすぐさま受話器を取る。

二言三言話して受話器を置くと、不壊に向かって口を開く。

「すぐに見えるそうですよ」
「そうですか」

頷いて、受付から少し離れた場所にある椅子に腰かけた。

「あ?不壊じゃないか」
「…三枝」

呼ぶことをほんの少しためらったのは、決して話しかけられた事が嫌だからではなくて。
らしくもなく跳ね上がりそうな声色を、落ち着ける事に手間取ったから。

誰かに指摘されずとも、不壊はもう気付いていた。
この想いの、正体、は。

「残念だったな。三志郎は今日、休みだぜ?」
「…別に、兄ちゃんに会いに来たわけじゃねぇよ。今日は仕事だ、仕事」

向こうから歩いてくる黒を眼の端に入れながら、不壊はそれでもそれに気付かないふりをする。

「へぇ、珍しいな。お前が本当に仕事だけでこっちに来るなんて」
「三枝…お前は俺をなんだと思ってんだ?」

低い声を出す不壊に、ロンドンは冗談だと軽く笑って見せた。


その、笑顔、が。

何時も、三志郎を取り合っている時に見る物とも、三志郎と話している時に見せる物とも、違って見えて。

「お待たせしました、不壊」
「いや…」
「それじゃ、僕はもう行くかな」

いつの間にか後ろに立った黒に声を掛けられて、不壊は思わず間の抜けた声をあげた。
それじゃぁな、と、軽く手をあげて去って行くロンドンの後ろ姿を見送って、不壊は一人、心中で決心する。

この気持ちを、受け入れようと。

色づき始めた想いの名前は『恋情』
笑顔に芽生えた感情は『愛しさ』

矢印の矛先は向きを変えた。

さぁ。

「すみません…営業部の…」
「あぁ…黒さんですね。不壊さん」

数日後、再び会社を訪れた不壊の、何時もとは違う行動が、すべての始まり。

「いえ…今日は…三枝、さんを」
「え?…あ、はい、分かりました。少々お待ちください」

さぁ、新しく動き始めたこの気持ちの行方は果たして、どんな終末に向かって進んでゆきます事やら…





「……これは?」
「次回の新刊ですっ!いかがですか?黒様!」

渡された紙束を、まるで資料でも読んでいるかのように真顔で読み終えた黒が問う。
にこやかに返された言葉に、黒は少し考えるようなそぶりを見せながら「ところで」と言葉を続けた。

「この後、二人はどうなる予定なんですか?」
「無論!くっつきますよ♪続編はロンドン君視点で書きすすめたいなって思ってるんですっ」
「そうですか…」

黒の口許に笑みが広がる。
そして。

「とても…良いと思いますよ。すみませんがしばらくこれ、お借りしてもよいですか?」

にこりと、三志郎にしか見せた事がないような笑みを浮かべて、そう告げた。

場に、興奮したようなどよめきが沸き起こる。
その笑みを目の当たりにした女性社員はやや頬を染めあげながら「もちろんですっ!」と頷いた。

「亜紀ぃ…最近黒が女子社員とばっかり話してて…オレつまんねぇ…」
「大丈夫よ。あんたが気にするようなことはないわ」

少し離れた所からそんな黒の様子を見ていた三志郎は机に突っ伏した状態で亜紀に話しかけている。
二人の会話の内容に大方の目安がついている亜紀は小さく苦笑いしながらそんな三志郎の頭をなでていた。

「日野さん」
「あら。もう話はすんだの?」
「えぇ、…これに、目を通して見ていただけますか?」

差し出したのは先程まで読んでいた紙束。
それを受け取って、一通り目を通した亜紀は、にやりと笑った。

二人が考える事は同じ。

妄想(オモイ)よ、真実(ホントウ)になれ!

…なぁんて、ね。

End.

(本当にこんな展開になったら色々楽よねぇ…)
(全くです。いっそ本当にくっついてくれませんかねぇ…)

(むー、二人ともオレの分かんない事を楽しそうに話しててつまんねぇ〜)




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