逆門3

□15.誤
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しとしと。
しとしと。

静かに、静かに。

霧のような、雨が降る。



パチャパチャ。

水の跳ねる音。

コツコツ。

聞こえるのは、自分の足音?

雨の日は、時間と白線に気をつけて。


誤解を生む雨。


チャイムが鳴って、静かな校舎から子供たちの元気な声が響く。
ランドセルに荷物を詰めて、元気良く教室を出てゆく子供たち。

「先生さよーならー!」
「はい、さようなら」

すれ違う教師と生徒、交わすのは別れの挨拶。

「三志郎君、じゃぁね」
「ロンドン君もまた明日」
「「おう!」」

元気良く返事を返す二人も同じ。
帰る場所?勿論この校舎内、それぞれの担当箇所ですとも。
それでも形だけはランドセルを肩にかけて、さぁ帰ろうと校舎の外に出ましょうか。

「ロンドン、帰ろうぜ〜」
「あぁ、少し待ってくれ」

ワンテンポ遅れてランドセルのロックをかけて、一歩先にいる三志郎に追いつくように駆け寄った。
教室を出ようとする二人に、掛かる声。

「三志郎、ロンドン」
「「ん?」」

振り向けば、そこにいたのはクラスメイトだ。
二人と同じ班なだけあって、喋る機会も多く、仲も良い方。
そのクラスメイトは二人に向かって声をかける。

「お前達っていつも一緒に帰るけど、家近いのか?」

勿論。
むしろ建物の括りで言うなら同じ家です。
ってかこの学校です。

などとは流石にいえるわけも無く、「まぁな」と返す二人に、彼は言った。

「へぇ、あのさ、良かったら途中まで一緒に帰ろうぜ」

「いいぜ」
「え゛」

ニコリと即答したのは三志郎、困ったような声を上げたのはロンドン。
確かに、二人の性格からして、あからさまに嫌がっては何か不審に思われるかもしれない。
しかし、

途中までって何処まで?

と云うのが正直な所だ。
どうするのかと三志郎を見れば、特に気にした風でもなく三志郎は「じゃぁ帰ろうぜ」と、さっさと教室を出て行ってしまう。
廊下に出たところで、清と話していた亜紀に声を掛けられた。

「あら、三志郎、帰るの?」
「おう、亜紀たちも一緒に帰るか?」
「ご一緒しても良いんですか?」
「「「勿論」」」

最後の肯定はクラスメイトとロンドンも揃って綺麗に三人分。
クラスメイトは純粋に一緒に帰ってみたくて。ロンドンの方はといえば、この際巻きこめるだけ巻きこんでしまおうと云うものだ。

気付けば2人が3人、3人が5人になって、プチ集団下校のようになっている。

「なんかこういうのも楽しいよな」
「そうね」
「滅多に集団下校なんてしませんものね」
「あぁ」

何時もと違うのもなんか良い、と頷き合う4人に、クラスメイトの一言が落ちた。

「でも朝はグループ登校だろ?」
「………」
「え、何で目ぇそらすんだよ、三志郎?!!」

最もな意見なのだが、自分たちにそれは関係ない。
なんたって授業開始5分前に起きたって充分間に合う場所に住んでいる。
むしろ朝礼のチャイムが鳴ってから家を出たって問題ない。

だから、集団登校などしたことがないのだが、そこは亜紀が上手くフォローした。

「三志郎毎朝遅刻ギリギリじゃない。待ってたら他の班員まで遅刻しちゃうわよ」
「あぁ、そうだよな。三志郎って朝弱いのか?」
「…寝たら起きられねぇんだ…布団の誘惑は断りきれねぇ……」

いまだ目を逸らしたまま、三志郎はポツリと呟く。
その言葉に分かるとその場の全員が頷いた。

靴を履いて、つま先を鳴らす。
昇降口を一歩出て、ポンッと小気味良い音、5つ。

赤青黄色、色とりどりの傘の花。
赤い傘の隣に黄色い傘、ツツイと寄って小さく訊ねた。

「で、ホントにどうするんだ?三志郎」
「ほら、もうすぐきみどりの時間だろ?」

指差す方には大きな時計。示す時間は4時42分。

「あぁ、成程」

納得したように頷いて、黄色い傘は少し離れた。

「こうやって真っ直ぐに線が走ってるとさ、」

そう言って、三志郎はトン、とその足を白線の上に乗せる。

「歩いてくださいって言われてる気分になるよな♪」

鼻歌まで歌う陽気さで、白線の上を真っ直ぐ歩く。
それを黙ってみていられないのはクラスメイト。

「ちょ、待てよ三志郎!」

慌てたように名を呼んで。

「お前、怪談知らないのかよ?!」

叫ぶ彼の声は綺麗に無視して、水を跳ねさせながら白線の上を歩く。

コツコツコツ…

聞こえるのは、自分たちの足音?

雨の日は、気をつけて。

コツ…コツコツコツ…

聞こえるのは白線の上。
三志郎よりも後ろに聞こえる音。

クラスメイトは振り向いて、声にならない悲鳴を上げた。

「―――?!!!」

彼は見た。

肘で歩く人を。
白線からそれることなく、三志郎を追いかけるかのように寄ってくる、老婆を。

その老婆は、ニタリと笑った。

「う、うわぁぁぁああ?!!」

声が出たことを自覚するよりも先に、足が動いた。
傘を放り投げて、全力で走る。
濡れる事など気にもならなかった。

後ろで誰かが呼ぶ声など耳に入らない。

彼は、全力で逃げた。





「あーあ、行っちゃったな」
「せっかく次の曲がり角でハルが待機してくれてたのに」

残念、と溜め息を吐く二人にロンドンと清は苦笑いを零すばかり。
彼が走り去った原因を作ったきみどりはといえば、

「肘でなんて…歩いて、無いのに…」

俯きがちに文句を言っていた。

「どうして人の子にはきみどりが婆ちゃんに見えるんだろうな?」
「さぁ…その辺り謎だよな」
「そうよね、きみどりは私たちよりも若く見えるのに…」
「雨には何か不思議な効果でもあるのでしょうか…?」

それぞれに疑問を口にするが、道のど真ん中で(人の子には)肘で歩く(様に見える)モノと会話しているのは傍から見て恐ろしいものがあるだろう。

「とりあえず、帰りましょう?」
「「「「そう(だな)(だね)(ね)」」」」

清の言葉に満場一致。
くるりと踵を返して歩き出す。

あめあめ ふれふれ かあさんが 

くるりとかさを回して歌い始めたのは誰だったか。

じゃのめで おむかい うれしいな

気付けば全員が、声をそろえて楽しげに。

ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン♪

校舎に着くまでの数分間、子供たちは声をそろえて歌う。
楽しげに、5番まで綺麗に歌いきって。

「それじゃぁ、また明日」
「明日は遅刻しないでよね!」

別れの言葉を掛ければ、元気良く返事が返ってくる。

「大丈夫!最近なんか朝不壊が起こしに来てくれるからさぁ」
「…ちなみに、どうやってだ?」
「え?部屋開けて、布団の中にもぐりこんでくるんだ。不壊の身体つめてぇからすぐ目が覚めるぜ」
「…三志郎君、そこは拒絶する所だと思いますよ?女の子の部屋に無断で上がりこむなんて失礼です」
「?そうか?…あ、でも、不壊どうやって入ってくるんだろう?オレ、寝る前はちゃんと鍵掛けてるはずなんだけどなぁ…?」

こてりと首を傾げてみせる三志郎は至極穏やかな雰囲気を纏っているのだが、

「…この学校に・・・怪談、一つくらい増えてもいい、よね?」
「いいわ」
「あぁ、開かずのトイレとかが良いんじゃないか?」
「釘と板、修君から借りてきましょうか…?」

残りの4人はそうでもなかったらしい。
不穏な空気を纏わせ、不穏な計画を立てている。

さて、果たして学校の怪談が一つ増えたのかどうかは―――

闇夜に響くノック音から推して知ってもらいたい、

End.

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