逆門3
□02愛
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ハァァ。
珍しい音だ。こと、目の前の彼に関しては。
「?どうなさったんですか?黒さん」
「隠岐さん…いえ、大したことではないのですが…」
ハァ。
まただ。顔を向けているほうを見れば、亜紀となにやら話し込んでいるらしい三志郎の姿がある。
喧嘩でもしたのだろうか、と首を捻れば、口を開いた彼の口から出た言葉は、
「一度で良いので三志郎君に『愛してる』と言って頂きたいものです」
フゥ。
また溜め息。先ほどまでよりは押さえたようだが。
しかし、清は思った。思ってしまった。
くだらない、と。
「三志郎君と何かあったんですか?」
「いいえ?特に何もありませんよ。ただ…思い返せばいつも私が言うばかりだな、と思いましてね」
「そうですか」
思わず清も溜め息を付きたくなる。
…何とか堪えたが。
大体、一体何を思っていきなりそんな事を言い出したのだろう、この人は。
いつだってこちらが呆れてしまうほどに幸せそうに見えるのに。
誰が見ても分かるほど、二人は互いを溺愛しているのに。
愛してるといってくれ?
貴方は今の現状に満足していないと?
そんなのだったらさっさと別れてしまいなさい。
そうしたら亜紀さんや三枝君が横から攫って行ってくれますよ。
そうして、二度と会えないように手回しはしっかりとするに違いありません、
居なくなって、届かなくなってから、そんなことを思わなければ良かったと気付いたって遅いんです。
後悔先に立たず。
人魚姫だって、見ているだけで満足していれば、側に居る事を望まなければ、声も失わずにすんだのに、消えてしまうことだってなかったのに。
その美しい歌声で、王子を振り向かせることだって出来たでしょうに。
望む事は悪いこととは言いませんが、多くを望む事は、罪ですよ?
そしてその罪は、必ず自分に返ってくるのです。
一番望ましくない形で、ね。
それでも、そうなって一番苦しいのはきっと三志郎君でしょうから。
「黒さん、思うんですけど」
ニコリと微笑んで、清は考えていた事を微塵も感じさせないほどに穏やかな声で告げた。
「恥ずかしいだけだと思いますよ?三志郎君」
「そうかもしれませんが…たまには言われて見たいと思いませんか?大好き、も嬉しいんですけどね…」
分かってない。
分かってませんよ、黒さん。
「黒さん、何言ってるんですか?」
愛してるより、
(大好きの方が三志郎君らしいじゃないですか!)
(でしょ?)
(…確かに、そうかもしれませんね)
End.
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