逆門3

□04金
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――SIDE S



自業自得だって、笑われるかもしれない。
入り口探しに思いのほか手間取って、くたくたで。

早く眠ってしまいたかったのだ。

温めのお風呂は、疲れた体を解すことにも、眠気を増幅させることにも効果覿面で、風呂から出たら即行で着替えて布団にダイブ。
そのまま夢の世界へ躊躇うことなく飛び込んだ。

不壊が、呆れたようにちゃんと髪をふけ、とか、布団を被れ、とか、言ってた様な気はしたんだけど。
眠くてそれどころじゃなかったんだ。


朝、起きたら。

なぁんか体がだるくて。
心なしか喉が痛くて。

布団から、起き上がれなくて。

あれ、もしかして風邪引いた?とか考えてたら、影から何時もみたいに不壊が出てきた。

「いつまで寝てんだい兄ちゃん。いい加減に起きねぇか」

つま先でコツンッて蹴り起こす。
あんまり寝てるといつもこうやって起こされるけど、今日はちょっとありがたかった。
や、だって自分じゃ起き上がれなかったし。

何とか立ち上がって、洗面所へ。
とりあえず顔を洗って、さっぱりさせよう、うん。
ついでに水で顔も冷えるだろうし。

「痛っ」
「オイオイしっかりしてくれよ兄ちゃん」

足元がふらついたせいで柱の角で頭ぶった。痛い…これはかなり痛い…ヤベ…涙出てきた。

「大丈夫かい?」

あんまりオレが頭抑えたまま動かないから、心配してくれたらしい。
不壊が前に回りこんでオレの頬に手を添える。

不壊の手は冷やっこいから気持ちい…。
夏だからって訳じゃなさそうなその気持ちよさに、どうやら熱も出てるらしい、と、ぼんやり考えた。
良く考えたら起き上がれない時点でそうだった気もするけど。

自分でおでこ触っても全く分かんねぇんだよな。
なんせ自分の手が同じ位熱いから。

「兄ちゃん?」

顔を覗き込んできた不壊が、驚いたような顔をした。
…何でだ?



――SIDE F


矢張りあの時無理やり叩き起こして髪をしっかり拭かせればよかった、と後悔。
もしくは自分が拭いてやればよかった。

矢張り、布団を被せただけでは駄目だったらしい。


朝、起きたような気配はするのに一向に布団から起き上がろうとしない兄ちゃんを蹴り起こして、違和感。
いつもなら暴言(何すんだよ馬鹿不壊!)が飛んでくるのに、今日は何も口にしない。
むしろどこか感謝されているような雰囲気さえある。

「顔洗ってくるか」

独り言なのか無意識なのか、ボソリと呟いた兄ちゃんの足取りは、いつも以上に、寝起きだからでは説明できないほどふら付いていて。

ゴンッと、鈍い音がした。

痛みに額を押さえる兄ちゃんに大丈夫かと声をかける。
返事が無い所を見るとよほど痛いらしい。

あまりにもその状態から動かないので若干心配になってきた。
何せぶつかったのは柱の角。
下手をすると額を切ったのかもしれない。

とにかく様子を見ようと兄ちゃんの前に回りこんで、頬に手を当てる。
傷を見ようと、声をかけながら顔を覗き込んで…驚いた。

顔が赤い。
瞳が潤んでいる。
息がやや荒い。

痛みのせいかとも思ったが、違いそうだ。

ここで、朝からの違和感が結びつく。

「兄ちゃん、風邪引いてんのかい?」

中々おきなかったのは熱が出て起きられなかったから。
ふら付いていたのは意識が朦朧としていたから。

自分は熱を感じる事ができないから、全く気付くことができなかった。
そんな自分を歯がゆく思いつつ、兄ちゃんの手を引く。

只でさえ力の入ってねぇ体は、いとも簡単に俺の方へと倒れてきた。

「え、ちょっと…不壊?」

驚いたような、しかし大声を上げる気力は無いらしい、掠れた兄ちゃんの声。
矢張り風邪かと確信して、布団の中に放り込む。

「今日は休みだ。寝ちまいな」



――NO SIDE


「でも、」

とか

「げぇむが」

とか。

気だるいはずで、もう下手すれば起きられない状況にも拘らず、三志郎は譫言のように呟く。
そんな三志郎にイライラと理不尽な怒りが募るのを感じながら、不壊はいいから、と三志郎の口を塞ぐ。

「もがっ」

おかしな声が出た。
小さくそれに笑いながら、不壊は告げる。

「いいから寝ちまいな。で、さっさと良くなってげぇむを始めようじゃねぇか」
「遅刻は、失格、なんだろ?」
「そしたらまた最初から始めりゃいい。兄ちゃんならすぐ追いつくさ」

だから寝ちまえ。

不壊の言葉に納得したのか、それとももう口を開くことさえ億劫なのか。
三志郎はそっと、瞳を伏せた。

さて、と、不壊は立ち上がる。
どうしたものか。

看病をしたいのは山々だが、食糧を買いだしに行く事すら、この妖の体では出来はしない。
形こそ人と似通っているが、不壊は誰にも見えはしないのだ。
目の前で荒い息を吐いている、三志郎以外には。

桶に水を汲み、タオルを浸す。
それを絞って、額に乗せてやる。

たったそれだけの事しか、出来ないのだ。

「ん…気持ち…い…」

ひやりとしたその感覚に、三志郎がうっすらと目を開いた。
三志郎が、小さく笑う。

「アリガト、ふえ。」

そして、落ち込んでいるらしい不壊の心境に気付いているかのように、さらに口を開いて、言葉を。

「ふえ、冷たくてキモチー、から、」

そばにいて、ほしい、な。


その言葉に不壊は大きく目を見開いて、それから。
三志郎が今まで見たことが無いほどに柔らかな笑みで頷いて見せるのだった。

「兄ちゃんが、治るまで側に居てやるよ」



早く良くなれ。
良くなって、何時もの瞳を見せてくれ。


その色はいけない。
優しくしたいのだ、護りたいのだ。
それなのに、その色は…それを全て打ち壊してしまう破壊力を持っている。

の蕩けた色。(破壊力は抜群!理性が根こそぎ持っていかれそうだ!)

End.

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