逆門3

□22疑
1ページ/2ページ




「少年、森に入るなって、言わなかったか?」

若干呆れたような声に、不壊は笑う。

予想通りだ。



疑問を解く森A


春の日の朝はのんびりとしていて。
7時ごろになって漸く明るくなり始める。

まるで同じ名前を持つ幼馴染のようだとぼんやり考えながら、不壊は義母に了承を得て、外に出た。

向かうのは、青年と出合った森。
昔話で立ち入り禁止を謡われた、禁忌の森。

特に何かに強く興味を抱いたことの無い不壊だったが、何故だかあの青年が気になって仕方が無かった。

逆光で見えない顔、意味ありげに持ち上げた唇。最後まで聞き取れなかった意味深な言葉―――

まさか、と思うのだ。
昔話の魔女は実在して、それはもしかして――と。


そんなことを考えながら一歩、森の中へ足を踏み入れた途端、掛けられた声。

此処で、冒頭に戻る。

「お前さんに聞きたい事があったんだよ」

青年の顔を真っ直ぐに見ながら不壊は告げた。
聞きたい事?と、小首を傾げて見せる青年は、どこか幼さを残して見える。
あぁ、と頷きながら、単刀直入。

不壊は、疑問を口にした。

「お前さんが…この森の魔女なのかい?」
「お前…」

青年が息を呑む。

沈黙が、落ちた。
風が吹いて、木々がざわめく。

…く

静寂を打ち破ったのは、青年の発した小さな音、で。


「くははははははははは!あっははははは!!!」


どうやら堪えきれなくなったらしい、青年は腹を押さえながら笑い転げ始めた。
驚いたのは不壊だ。
一体何をどうしたら今の会話に笑えるのか。

「お、おい?」

躊躇いがちに声を掛けた不壊にひとしきり笑った青年が目じりに溜まった涙を拭いながら言葉を紡ぐ。

「だ…だってお前!そんな真顔で『お前さんが魔女か?』ってそんな!!…クククッ…ねぇだろ、そりゃ…!」

話しながらまた笑いがこみ上げてきたらしい、青年の言葉の端々に笑い声が混じっている。
此処まで笑われるとなんだか今度は腹立たしいものがこみ上げてきて、不壊は不機嫌なのを隠そうともせずに青年を睨みつけた。

「そんなに笑う事かい?」
「あー…ごめんごめん、だってオレはどう頑張っても『魔女』にはなり得ないだろ?」

確かに良く考えればそうだ。
魔女と言えば書いて字のごとく、女がなるものであって、目の前の青年はどう見ても女性ではない。
しかし、そんな些細なことでアレほど大爆笑されたのかと思うと、今度は怒りを通り越して呆れさえ湧いてくる。

一体どれだけ笑いのツボが浅いのだ。

「じゃぁ…違うんだな?」
「あぁ、勿論だ、少年。オレは魔女ではないよ」

未だに小さく笑っている青年に不壊はそういえば、と思う。
自分は青年が魔女か否か、と言うことよりも告げたいことがあったのだった、と。

「不壊」
「は?」

唐突に告げられた言葉に青年は間抜けな声を上げる。
そんな青年の様子には気にも留めず、不壊は続けた。

「俺の名前は『不壊』だ。『少年』じゃねぇ」

にこりと、青年が笑う。

「そっか。オレの名前は『三志郎』って言うんだぜ、少年」
「……兄ちゃん……俺の話し聞いてたかい?」

脱力したように呟いた不壊に、青年は「勿論♪」と、本気なのかどうか区別の付けがたい笑みを浮かべた。

「取り敢えず少年。オレはこれから用事があるんだ」
「用事?」
「おう、花を摘みに行かなきゃいけねぇんだよ」

花、と言うのはおそらく、彼とであったとき摘んでいたあの見たことのない花のことだろう。
一体何に使うのか、と訊ねれば、薬だと青年は答えた。

「薬?」
「あぁ、あの花ってわりと万能な薬草でな?以前乱獲者が増えたせいで絶滅寸前だったんだ」

今はちゃんと考えながら摘んでるから大丈夫だけど、と付け加えながら、青年はさらに続ける。

「昔話は、森を護る為に作られたのが始まりだったんだぜ」

ならば、と不壊は訊ねた。

「魔女は存在しねぇのかい?」
「いいや」

即座に返されたのは否定の言葉。驚いたような顔をする不壊に青年は緩く笑んだ。

「魔女はいる。…いや、居た、と言う方が正しいかも知れねぇな」

そう、寂しげに青年は呟く。

(昔話の魔女はもう居ない。)

「居た?…ってことは、今は居ないっていうのかい?」
「……中々鋭いな、少年」

(魔女と呼ばれたのは一人の人間)

首を傾げる不壊に青年は笑う。
馬鹿にされたと感じたのか、そんな青年に不壊はむくれてみせた。

(彼女は、薬の知識に長けていて、)

「今この森に居るのはそうだな…元弟子と、その見習い…かな」
「へぇ…」

興味深そうに声をもらす不壊に青年はそうだ、と手を叩く。

(少し、他人と接するのが苦手だった)

「なんなら、会わせてやろうか?」
「良いのかい?」
「あぁ、相手が良いっていったら、だけどな」

(それでも彼女は人が好きで、愛おしくて、いくつも薬を作ったのに)

多分大丈夫だと思うけど、と呟いた青年に、不壊は告げた。

「よろしく頼めるかい?兄ちゃん」
「おう、じゃぁ近いうちに返事をするから、それまで大人しく家に居ろよ?」

(それを無遠慮に使いながらも、効き過ぎる薬は人間業ではないと決め付けて)

ピ、と人差し指を突きつけながら告げられた言葉に、不壊は思わず数歩下がりながら頷いた。


一体どうやって返事をくれるのだろうか、と心中で首を傾げながら。


(彼女を魔女だと決め付けた。)

End.

後書へ

戻る













































































































































































































































+
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ