逆門3
□28空
1ページ/2ページ
「三志郎」
ともすれば聞き逃してしまうような声を拾い上げて、子供は足を止める。
くるりと影に振り向いて、彼は尋ねた。
「どうした?あ、入り口が近いのか?」
もしかして、と、期待に瞳を輝かせた子供に、彼の個魔はすまなさそうに目を伏せる。
「ううん、違うの。あのね、」
ポンッと、小気味良い音を立てて、彼女が何時も手にしている傘が開かれた。
はい、と、それを子供に手渡しながら、一言。
「もうすぐ、雨が降るよ」
見上げた空は、快晴。
雲ひとつない、とまでは云わないが、広がる青に子供は首を傾げる。
雨が振る、と言われても、あまり信じられないのだろう。
戸惑うような表情を見せながら、子供は彼女に差し出された傘を取った。
赤い傘が、青い空によく映える。
どこまでも伸びていそうな高い空から、透明な雫が一つ、落ちた。
「「あ」」
二つの声が重なる。
子供が傘をしっかり差しなおして、個魔がその身を影に潜らせた。
その、瞬間。
まるでそれを待っていましたとでも云わんばかりに、空が泣きはじめる。
雨脚は徐々に酷くなり、『バケツをひっくり返したかのよう』と云う形容が似合うほどになるまでに、時間は差して必要としなかった。
辺りが騒然とし始める。
足早に駆け抜けてゆく人々を目の端に捕らえながら、子供は影に傘を傾けた。
『三志郎?』
子供の行動が良く分からなかったらしい個魔が声をかければ、彼は笑う。
彼女が一番好きな、暖かな表情で。
「ありがとな、きみどり!」
影に潜ってないで一緒に歩こうぜ!
傾けた傘は彼女が濡れないように、向けられた笑顔は心からの感謝。
するりと影から抜け出して、彼女は微笑った(わらった)。
「どういたしまして」
雨に当たった所で、濡れもしないこの体で、紅い傘を持つのは何のため?
攻撃を守る手段、と言うのも勿論あるけれど。一番は子供をぬらさない為。
それに、濡れないから大丈夫だと言っても、優しいあの子は傘を傾けてくれる。
それが嬉しいから。
それに、こっそり相合傘だって出来るもの。
こんなこと、「妖逆門」のままでいたら、そんなにあることじゃないでしょう?
新しいげぇむをしよう。
今度はわたしも楽しむ為に。
三志郎とずっと一緒にいる為に。
不壊に、全力で意地悪する為に!
泣き出した空を見上げて嗤え。
End.
後書へ
戻る
+