DRRR

□おまたせ。
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津軽が池袋に帰ってきて、もうすぐ一ヶ月。
俺が、津軽と再会してから2週間。

今までよりも、池袋に行く頻度が増えたのは自覚している。

だから、この状況も…予想してなかった訳じゃ、無いんだよね。
なんとなく、大丈夫なんじゃないかと、淡い期待を抱いていただけで、さ。


合縁奇縁〜君と始める物語〜


「♪」

楽しげに鼻歌を歌いながら、臨也は池袋の街を歩いていた。
向かうのは、とあるファミリーレストラン。

「楽しみだなぁ、楽しみだなぁ、楽しみだなぁ♪」

堪え切れない、と云った様子で笑みを零す臨也だが、その表情は彼が趣味とする【人間観察】をしている時とはまた違った種類の笑みであった。
軽くスキップすらし始めた彼の待ち合わせ相手は、いつものクライアントではない。
つい2週間ほど前に再会した幼馴染、津軽である。

待ち合わせの時間は今から30分後。
少々早い様な気もするが、それほど楽しみなのだろう。

しかし、忘れてはいけない。

ここは、池袋なのだ。


◆ ◇ ◆


自分のすぐ真横を、何かが通過した。と、臨也が認識したのは、ゴウ、と云う風を切る音が真横で聞こえたからだ。
次いで後方から聞こえる、何かが壊れた様な音と、通行人の悲鳴、そして、

「いーざーやーくーん?」

間延びした、けれどもドスの利いた声で呼ばれた自分の名に、臨也は理解した。

あぁ、ここは池袋だった、と。

チラリと後方へ目線を投げれば、何処から持ってきたのか、木製の立て看板。
可愛らしい文字で【本日のおすすめ】と書かれたその看板は、お勧めのメニュー部分が無残にも砕け散って解読不能状態になっている。

そんな哀れな看板に向かって、一つ溜息を落とすと、臨也は前方からいかり肩でやってくる天敵を見て、もう一度溜息をついた。

「シズちゃん…」
「手前臨也!何懲りずに池袋に来てやがんだコラ」
「君さぁ、何で毎回毎回俺が池袋に来てる事が分かるのさ。まさか俺に発信器でもつけてるんじゃないだろうね?」

冗談のように笑みながら問う臨也だったが、しかし静雄には冗談として捉えられなかったらしい。
くすりと笑う事もなく、青筋を浮かべたまま、彼は声を張り上げた。

「手前が池袋に来ると臭うんだよ、くっせぇ臭いがなぁ!」
「それ、毎回言うけどさぁ、何なの?シズちゃんってば犬だったの?どうでもいいけど、見逃してくれない?俺、今から人に会う約束があるんだよね」
「あぁ?誰が逃がすか」

静雄の言葉に、臨也は小さくを溜息をつく。「だよねぇ」

コートの裾口から折り畳み式のナイフを取り出して、眼前で構える。
静雄は静雄で、何処から引き抜いてきたのか、進入禁止の道路標識を片手に構えていた。

じりじりと間合いを取る二人の間には、言い知れぬ緊張感が漂っている。

どちらかが動けば、戦争が始まる。

一触即発の空気の、中で。

♪わぁーたしーはーひとりーれんらくぅーせぇんにぃのりー♪

場にそぐわない、音楽が鳴り響いた。

「あ」

その音に反応を示したのは臨也で、慌てたようにポケットから携帯を取り出すと、通話ボタンを押して声をあげる。

「も、もしもし?」
[臨也?今、何処だ?]

電話口から聞こえるのは、心配気に響く津軽の声。
その声に、臨也は一瞬携帯を耳元から離して時刻を確認し、再び慌てた様な声をあげた。

「嘘っもうこんな時間?!ご、ごめん津軽、すぐ行くから、もうちょっとだけ待ってて!」
[いや、臨也に何かあった訳じゃないなら良いんだ。この間みたいに絡まれたのかと思って、少し心配になっただけだからな]

何処までも優しく、臨也を案じる様な津軽の言葉に、臨也は感極まったかのように言葉を詰まらせると、今ここに津軽がいれば、抱きつきかねない勢いで喜びの言葉を紡ぐ。

「津軽…!本当に君は相変わらず恰好いいね!大好き!」
[…っ!お、俺も、臨也の事、大好きだぞ]
「!ありがとう、本当に、すぐに向かうから、もう少しだけ待っていてくれるかい?」
[わかった。気をつけてな、臨也]

通話を終了させて、臨也は標識を持ったまま固まっている静雄に向かって口を開いた。

「そう云う訳だからシズちゃん、またね!」

◆ ◇ ◆


走り去って行く臨也をただ茫然と見送りながら、静雄はその場に立ち尽くす。
彼が我に返ったのは、池袋がいつもの喧騒を取り戻してから、10分ほど経過した後だった。

(大好き!)

満面の笑みを浮かべて、電話口の相手に告げた臨也を思い返して、静雄は舌打ちを零す。

どうして。
誰に。

返答の無い疑問を心中でぶつけながら、静雄は手にしていた標識を思いきり地面へと投げつける。
コンクリートを破壊する音を響かせて、標識は無残にも捻じ曲がった。

「くそっ!」

苛立った声をあげて、静雄は歩き出す。
彼の神経に触れるにおいは、まだこの池袋から出ていない。
待ち合わせをしていると言っていたから、恐らく待ち合わせ場所が池袋なのだろう。

それならば、と、静雄は思う。

(ぜってぇ、探し出してやる)

せめて、何を企んでいるかを知る迄は、池袋に長居させる訳にはいかないと、静雄は一人で決意を固めるのであった。

◆ ◇ ◆

店の外に、津軽は居た。

初めは、注文を聞きに来た店員に「連れを待っているんで」と断りを入れて待っていた彼だったが、だんだん不安になってしまったらしい。
席を取って置いて貰えるように頼むと、かれこれ10分ほど前から、店の外に出ている。

軽快に聞きなれたテンポを刻む足音を耳に止めて、津軽はそちらへと視線を向けた。

「津軽!」

少々離れた所から、待ち人が手を振っている。
それに軽く手を振り返して、津軽もその名を呼んだ。

「臨也」

良かった、無事だった。と、心中で津軽が小さく呟いた事など、臨也の知る所ではない。
ただ、津軽が店の外で待っていてくれた、と云う事実が、彼の表情を柔らかな物へと変えて行く。

いち、にぃ、さん。

ステップを踏んで、臨也は思いきり、津軽へと抱きついた。

おまたせ! (…取敢えず、シズちゃんは後で嫌がらせしてこよう。)


「い、臨也?!(あわあわ)」
「ごめんね津軽、途中で知り合いに会っちゃってさぁ、待ち合わせがあるって言うのに引き止めてくるんだよ、撒いてくるのに時間かかっちゃって…」
「……そうか。(撒く…?)」
「もしかして、ずっと外にいたの?」
「いや、一度店に入って席は取ってあったんだが…臨也が、心配でな」
「(キュン)もう、津軽格好良すぎだよ!!(ぎゅーっ)」
「(ぎゅっ)ありがとな、臨也。(抱きついてくる臨也、可愛いなぁ…)」


End.


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