DRRR

□ごめんね。
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それはいつも通りの日常だった。

津軽との待ち合わせは無くて、今回はただ、仕事で池袋に来ただけ。
もしかしたら会えるかも、なんて。淡い期待を抱いていたのは否定しないけど…

ちょっと、今回は間が悪かった。


合縁奇縁〜君と始める物語〜

それは、遡る事大凡1時間前。

「では、私はこれで」

営業スマイルを張り付けて、臨也はクライアントであった男に別れを告げる。
情報料として受け取った封筒をコートの内側に仕舞い込み、臨也は人通りの多い表通りへと足を進めた。

人の行き交うその場所を、臨也はどこか楽しげに歩んでゆく。

ちらりと辺りを見回すだけでも、随分と様々な人間がいる物だ。
足早に携帯片手に歩いてゆくサラリーマン、友人と話しながらゆっくりと歩く女学生。
街頭に立ってビラ配りをするアルバイト、下心の籠った笑みを浮かべながら、女性に話しかける男性。

そんな人間達に向けて、臨也は笑みを浮かべながら、(愛しいなぁ)と、心の中で呟いた。

しかし、そんな思考が次の瞬間には木っ端微塵に打ち砕かれるとは、流石の臨也も予想もしていなかっただろう。

…いや、ある意味では予想も出来ていたかもしれないけれど。

◆ ◇ ◆


ヒュ、と。風を切る音が耳元で聞こえたのが先か、風を感じたのが先か。

何かが、残像を残して臨也の真横を通過して行く。
後方で転がった、ゴミ箱であったであろう残骸を目にとめて、臨也は思わず小さな声をあげる。「げ、」
そんな臨也の耳に、次いで入って来たのは、聞きなれたフレーズだ。

「イーザーヤーくーん?なぁんで、手前はまた池袋にいやがんだ?あ゛ぁ゛?」
「……シズちゃん…」

青筋を浮かべた予想通りの人物に、臨也は小さく息を吐いた。

「池袋には来るなって、言わなかったか?」
「だからさぁ、俺にだって都合ってものがあるんだよ、池袋に来るも来ないも俺の勝手だろ?」
「うるせぇウゼェ!いっぺん死んどくか?あ゛ぁ゛?臨也君よぉ!」

不運にも、近くにあった自動販売機に静雄の手が伸びる。

地面に固定されている事などものともせずに、自動販売機は持ち上げられた。

「あーあ、シズちゃん、自販機っていくらすると思ってるのさ。可哀想に、その自販機だってまだまだ働けたって云うのにねぇ」
「うるせぇ!そう思うんだったら手前がブクロに来なけりゃ自販機も壊される回数がぐっと減ってありがたいだろうよっ!」

ブン、とぶん投げられた自動販売機を見ながら、臨也は笑みを崩さない。
この程度ならば、まだ避けられる。

「壊されなくなって、とは言わないんだね」

ハハ、と笑いながら、臨也が身を翻そうとしたのだが。
「臨也!」

焦った様に、自分を呼ぶ声に、反応が一瞬遅れた。
目の前の天敵が呼んだのかと思う錯覚。
その感覚に、臨也は思わず表情を焦ったものへと変えた。

目の前が、影で覆われる―――


◆ ◇ ◆



「な?!」

確実に臨也を狙った自動販売機が、不自然に動きを止めた事に、静雄は思わず驚いた様な声をあげた。

「臨也、大丈夫か?」
「つ…津軽…」

己を守る様に、立ちふさがっていた幼馴染を視界に入れて、臨也も驚いた様な声をあげる。
似ているとは思っていたが、まさか本当にこんな所まで似ているとは。

飛んできた自販機を難なく受け止めている津軽に向けて、臨也は曖昧に笑んだ。



「…で、この何となく俺に似ている様な気がする、臨也に自販機を投げた人間は…臨也の友達か?」

自販機を元の場所に戻しながら、津軽は問う。
その問いに、思わず二人は同時に口を開いた。

「「誰が好き好んで(こいつ)(シズちゃん)なんかと友達にならなきゃいけない(んだ)(のさ)!!」」
「……取敢えず、知り合いは知り合いなんだな」

二人の反応に、呆れたように呟きながら、津軽は臨也の傍へと寄る。

「臨也、まさか、この間遅れた時も…こんなことしてたのか?」
「う゛…」

この間、と云うのは、ファミリーレストランで待ち合わせをした時の事だろう。
まさに津軽の言う通りである為、臨也は言葉を詰まらせることしかできない。

「自動販売機なんて、当たったら確実に怪我じゃ済まない様な物を投げるって事は…臨也を殺す気なんだよな?お前さんは」
「……チッ」

まさか、暴力は照れ隠しです。
池袋に来るなと連呼するのは「そんな暇があるなら真っ先に俺に会いに来やがれ」と云う意味です、と、本人を目の前に言う訳にもいかない静雄は、そっぽを向いて舌打ちをしている。

そんな二人に、津軽は小さく溜息をついた。

「臨也、お前がこんなに危険な目にあうなら…池袋では会えない」
「え…!津軽、もう俺と逢ってくれないのかい…?」

不安げに揺れる紅玉の瞳に、津軽は優しげにその蒼玉の瞳を細めて見せる。

「そうじゃない。お前が危険な目にあうなら…俺が臨也に会いに行く。だから、俺に会いたいと思ってくれるなら、呼んでくれれば良い」
「津軽……!」

感極まった様に名を呼び、本当に嬉しげに表情を綻ばせた臨也は、目の前に静雄がいる事も忘れて津軽へ飛びついた。
そんな臨也に、彼も嬉しげに表情を緩ませながら、その背をあやす様に叩いている。

「取敢えず、用事は終わったのか?臨也」
「うん、後は帰るだけだったんだけど、津軽に逢えたらいいな、と思って歩いてたんだ」
「そうか…なら、俺も別に用事も無いし…これから、臨也の家に行っても良いか?」
「もちろん!」

楽しげに言葉を交わし合う二人の意識には、最早先程まで関わっていた静雄の存在など隅に追いやられていた。
未だに抱きついている臨也の体を抱え直し、ゆっくりとしたテンポでその場を離れて行く津軽をただ茫然と見やりながら、静雄は思う。

(もしかして…本気で臨也が池袋に来なくなる日も近い…のか?)

そして、大した日数も経たぬうちに、その予想が強ち外れてはいなかったと、静雄は知る事になるのであった。


ごめんね?

「津軽…怒ってるんだろう?」
「(きょとん)怒ってなんかいないぞ?ただ…ちょっと、悲しくなっただけだ」
「?」
「臨也が逢いに来てくれるのは嬉しい。だけど…その為に怪我をしてしまうかもしれない危険があると思ったら…な」
「津軽…(キュン)」
「臨也…家とか、教えて貰っても良い…か?」
「もちろんだよ!でも、逢いたいなら呼べばいいって言われたら…俺、毎日呼んじゃうかもよ?」
「(キュン)望む所だ(にこり)」


End.
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