DRRR

□愚者ノ嘲笑。
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好きだと言えば、頷いてくれる。
愛しているとささやけば、頬を染めながら、小さくはにかんでくれる。

だけど、君の口から、すき、と云う言葉は零れない。

不安になる。
君が照れ屋だと言う事は分かっているけれど、それでも。

告白は自分からだ。
デートに誘うのも、押しかけるのも、全て自分から。
君は自分の提案に従っているだけなのではないか。

そう思っても、仕方がないと、思う。

だから、試そうと思った。
君が、本当に自分を好いてくれているのかを。

君が、どれくらい自分を好いてくれているのか、を。

「ねぇ、イザイザ」

名前を呼ぶ。
君はこちらを見て、小さく笑んだ。

「なんだい?狩沢」

いつものデート。
場所は自分の家。

勿論、例にもれず自分からのお誘いだ。

冗談が大半。不安が、少し。
そんな気持ちで、口を開く。

「別れようか」

時が止まった。
それは君の時間か、自分の時間か。

きっと、両方。

君は一瞬目を見開いて、そして、泣きだしそうに微笑んだ。
その表情を見て、一瞬で全てを後悔したのだけど、もう、全てが遅かった。

「そうだよね」

君が小さく呟く。

「俺なんかと居ても、楽しくなかっただろう?ごめんね、狩沢」

違う。

「でも、ありがとうね。短い間だったけど…凄く、楽しかったよ」

違う。

「だいすき、だった、よ」

違う。

そんな顔が見たかったわけじゃない。そんな言葉が聞きたかったわけじゃない。

「嘘。嘘だよ、イザイザ」

慌てて否定の言葉を零すけど、君にこの言葉の真意は届かない。

「良いんだよ、狩沢。自分を繕わなくても。俺がだいすき、なんて変なこと言ったせいで罪悪感が湧いちゃったんだろう?」
「ちが…!」
「うん、ありがとね。狩沢は優しいから、気にしちゃうのも分かってたんだけど。ごめんね俺、多分一回も真面目に言えなかったから、最後に一回くらい言っておきたかったんだ」

違う。

その言葉が、届かない。

嘘なのに。

その言葉こそが、優しい嘘なのだと君は笑う。

「い…イザイザ!」
「うん、安心してよ、もう会わない様に、努力するから…さ。気に病む必要なんて、無いんだからね?」

君がすくりと立ち上がる。
自分の足は、まるで縫いつけられたかのように動かない。


そして、自分の嘘は君に真実と捉えられたまま、君は姿を消した。



後には、ただ。後悔ばかりが残る。

欲を出さなければ、あのままの現状に満足していたのなら。

君、は。

まだ自分の隣に立っていてくれたのだろうか―――?

者ノ嘲笑。
オロカモノのナゲキ。)



End.
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