DRRR

□寒い日は、
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「それじゃぁ、やるか?鍋」

思いのほかあっさりと、ドタチンはそう言って、笑った。


◆ ◇ ◆


時は、遡る事、1時間前。
町中でばったり、本当に何の意図も企みもなく偶然に、臨也と京平が出会ったことから、物語は[今]へと繋がって行く。

「よぉ」
「おや、ドタチン。奇遇だね」
「…その呼び方はやめろ」

定例と成りつつある様な声の掛け合いから始まって、二人は特に何か目的があるでもなく、つらつらと世間話を繰り広げていた。
そんな中で、ふ、と臨也が声をあげる。「そう言えば」

「ドタチン、この間新羅の家で鍋やったんだって?」
「…あぁ、よく知ってるな」
「情報屋を甘く見ないでほしいなぁ」

くすくすと笑みを零しながら、からかう様に告げられた言葉に、京平は目元を緩ませた。
同じようにからかう様な声色で、彼も返してやる。

「情報屋って云うのは、そんな小さな個人の食生活まで売り物にするのか?」
「ハハ、そう云う訳じゃないよ。ただ、俺の情報網を甘く見ないでって話さ。それにしても、帝人君達は誘ったのに、俺には声もかからないってどう云う事さ」

少々拗ねた様な声色で、臨也は零す。
そんな臨也に「鍋、やりたかったのか?」と京平が尋ねれば、間髪いれずに「当然」と云う言葉が返って来た。

「俺だって鍋は好きだよ。一人で食べるくらいにはね」

何処か自嘲する様な声色でそう呟いた臨也に対して、京平は口を開く。

「それじゃぁ――」

そして、物語は[今]と連結する。


「……は?」

思わず間の抜けた様な声をあげた臨也は、しかしすぐに我に返ると再び声をあげた。

「え?何それ。俺と一緒に鍋を囲みたくないから前は誘わなかったんだろ?」
「いいや?少なくともセルティは誘う気でいたぞ?静雄と岸谷も同じだ。お前を誘わなかったのは…紀田達がいたから、な」

あっけらかんと言ってのけた京平に臨也は、彼にしては珍しく、暫くの間放心状態になっていたのだとか。


「紀田君達がいたからって、何」


漸く臨也がそう絞り出したのは、京平が新羅へと連絡を入れ終えたそのあとだった。

◆ ◇ ◆


「やぁ、いらっしゃい」
「いきなり悪かったな。別に、今日じゃなくても良かったんだが」
「構わないよ、丁度今日は寒いし鍋にでもする?って、セルティと話してた所だったからね」

それから数十分後。
京平に連れられて、臨也は新羅のマンションにいた。

にこやかに扉を開く新羅が、京平と会話をしている。

「静雄は呼んだのかい?」
「あぁ、仕事が終わってから来るらしい。先に始めていてくれとのことだ」
「オッケー。それじゃぁ…臨也」

新羅が臨也を呼ぶ。
ぼんやりと二人の様子を見ていた臨也は、その声にハッとしたように口を開いた。

「な、何?新羅」
「何?じゃないよ。そんな所で突っ立ってないで入っておいでってば。あ、もしかして前回呼ばなかった事を根に持ってるのかい?」

「別にそう云う訳じゃないけど、」と、告げる臨也の声は届いているのかいないのか、「あれは仕方なかったんだよ」と、新羅は困った様に笑う。

「前回は園原さんを誘う関係で紀田君達も呼んだんだけど、ほら、あの子たち君と静雄が食事の時は大人しいの知らないだろう?セルティが説明しても信じて貰えなくてね、呼べなかったんだ」

あぁ!セルティの言う事なのに信用できないだなんて!あり得ない、信じられない事だと思わないかい?!

等と、唐突にスイッチが入ってしまった新羅に苦笑いを零しつつ、京平は臨也の肩を叩きながら「ま、そう云う事だ」と、笑った。

自分が一緒に食事もしたくない位に嫌われていて、だから呼ばれなかったのだと思っていた臨也は、思いのほか自分は好かれていたようだと認識して、ホッとしたように息を吐いた。

そして気付く。

どうやら自分は、相当気を張っていたらしい、と。

◆ ◇ ◆


『いらっしゃい、臨也』
「セルティ…」

リビングダイニングへと通された臨也は、そこで鍋の準備をしていたセルティに声を掛けられる。
話には聞いたが、まさか本当に彼女にまでにこやかな言葉を掛けられるとは思っていなかった臨也は、少々面を食らった様な声をあげた。

『この間はすまなかったな、』
「良いよ、別にそれは。ドタチンにも新羅にも散々説明を受けたから。と、言うか。君にまで頭を下げられたら新羅からメスが飛んできそうだ」

軽く笑みを浮かべながら呟けば、後ろからからりとした声が飛んでくる。

「良く分かってるじゃないか、臨也」

振り向けば、そこには予想通り、と云うべきか。
声と同じようにからりとした笑顔を浮かべた新羅が、そこに立っている。

本気で投げるつもりはないのだろう、と云う事は分かっている。
しかし、投げるフォームではないにしろ、メスをしっかりと構えている新羅に、臨也と京平は揃って苦い笑みを零すのであった。

『新羅、本気で投げたら速攻で縛るからな?!』
「え?!セルティに縛られるのかい?ならちょっと今から本気で投げてみようかな!臨也、勝手に避けておくれ!」

セルティが、思わず掛けた言葉に、先程とは打って変わって嬉々とした笑みを浮かべた新羅が、真剣にメスを構え直している。
そんな新羅に呆れたように笑いながら、臨也は言葉を零した。

「勝手にって…別に良いけど…」
『良くない!と云うか、投げることをやめろと言っているんだ!!臨也も承諾するな!』

『あぁもう!』と、若干憤る様な雰囲気をにじませながらも、セルティがPDAを打ち込んでゆく。

『どうしてお前はそうやって、私の事になると意見が180度変わるんだ!』
「そんなの至極当然じゃないかセルティ!僕の世界は君で出来ていると言っても過言ではないんだよ?君が【白】と云えば、【黒】だって白くなるんだよ!」

当然、それこそが自然の摂理であり真理である、とでも言うかのように告げる新羅に、「このバカップルが…!」と思ったのはおそらく、臨也も京平も同じであったはずだ。
その証拠に、二人は顔を見合わせて呆れた様な乾いた笑みを浮かべている。





「ねぇ、ドタチン」
「…なんだ?後、その呼び方はやめろ」
「良いじゃん別に。あのさぁ……何時になったら始まると思う?」
「………さぁ、な。」

結局、二人の言い合いと云う名の惚気は、静雄がチャイムを鳴らすまで続いたのであった。





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