DRRR
□君ニ約束。
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◎狩臨で年齢操作。
◎臨也君が年上で、狩沢さんとは7歳差。
「ねぇ、イザイザ」
少し変わったあだ名で俺を呼ぶ、彼女の笑顔は可愛らしい。
「なんだい?」
彼女の笑みに釣られて、俺も笑みながら、言葉を促す。
満面の笑みで、続けられた言葉、は。
「わたしね、大きくなったら、イザイザをおよめさんにするの!」
何処か、接続詞がおかしかった。
「…俺『を』?」
「うん、イザイザを」
そこは普通、「イザイザのおよめさんになるの!」が正しいのではないだろうか。
あぁ、そう考えると後続する言葉も可笑しい。
本人も肯定している事だし、矢張り言い間違いと云う訳ではないらしかった。
まぁ、子供が将来の約束を交わすのはある意味テンプレだ。
好きな人が出来ると、その『好き』が恋愛か友愛か、はたまた敬愛かなんて種類は関係なく『およめさんになる』『けっこんする』と云った言葉が零れるもので、それが大人になるまで続く事など稀なこと。
どうせ、高校を卒業したら引っ越す予定の俺と、恐らく高校を出るまで此処に住み続けるであろう彼女は、もうすぐ関わりが絶たれるのだ。
きっとこの先、色んな人と出会って、この日の約束など忘れてしまうだろう。
そう考えて、一抹の寂しさを抱えながら、俺は緩く笑んで見せた。
「そっか、俺をお嫁さんにしてくれるんだ。それは楽しみだなぁ」
「えへへ、覚悟して待っててね、イザイザ!ぜったい、ぜったい、迎えに行くんだから!」
楽しそうに笑みながら、差し出された小指に指を絡めて、約束の歌を歌う。
さて、約束を破るのは、果たしてどちらだろうね?
きっと君と再び出会う頃、君は俺への気持ちなんて忘れているだろう。
もしかしたらもう、恋人もいて、結婚までしているかもしれない。
だけど、俺はこの日の事をきっと忘れないだろう。
再び出会う事があったなら、その時は微笑みながらからかう様に告げてやるのだ。
『小さい事はイザイザをお嫁さんにするって――』
…いや、ここは少し捏造しよう、お嫁さんにしてあげるって言ったのに、なんて、俺は乙女か。
『イザイザのお嫁さんになる!って、言ってくれたのにね』
そうやって、告げてやろう。
何処かの親戚のおっさんのようだけど、まぁそれも悪くないだろう。
(好きだったんだ、何て。言える訳ないからね)
そう思ったのは、もう、何年も前の話だ。
俺はまだ高校生で、彼女もまだ小学生だった。
俺が新宿に引っ越してから出会う事はやはりなかったし、今まで池袋に遊びに来ても、彼女らしい影を見つける事はなかった。
それなのに。
「あれ…?もしかして…イザイザ?」
「え…?」
あれから7年ほど経過した今。
再び俺と彼女は巡り合った。
しかも、旧友の後ろから顔を出す、と云う何とも不思議な出会い方だ。
「ん?知り合いだったのか?」
今まで話していたドタチンが、後ろを振り返りながら彼女に問う。
彼女は、相変わらずの満面の笑みを浮かべて、こう告げた。
「うん♪私のお嫁さん予定だよ☆ね!イザイザ?」
あぁ、どうやら彼女は覚えていてくれたらしい。
あの、戯言の様な約束を。
そして、約束を守ってくれるらしい。
「またお前は…」
彼女の言葉をどう取ったのか、何故か溜息をついているドタチンに首をかしげながら、俺は笑った。
「うん、そうだね。……久しぶり、絵理華ちゃん」
どうやら俺は、彼女に、からかう様に、何処かの親戚のおっさんの様な台詞を吐かなくても良いらしい。
「イザイザ可愛いっっ!!」
「え、ちょ、うわ?!!」
彼女は俺に抱きついてくれて、もう一度、あの頃の約束を告げてくれる。
「大きくなったら――」
否。
あの頃とは少し違う。
「いや、もう十分大きくなったよねぇ?イザイザ。私のお嫁さんになってくれるかな?」
答えは勿論、決まっている。
今日まで彼女を忘れなかったのも、彼女の幼い約束を覚えていたのも、からかう様に告げてやろうと心に決めたのも。
全て答えに繋がっている。
「喜んで」
淡く笑んだ(らしい、後から聞いた)俺に、何故か彼女が奇声をあげて飛びついて来るのは、後10秒後の話。
君ニ約束。
(キミにプロポーズ。)
「い…イザイザ!そんな可愛い顔しちゃだめぇぇぇぇぇえ!!」
「…は?何の話をしてるのさ、絵理華ちゃん…って、もう小さくないんだからこの呼び方は変か。…とにかく、話が見えないんだけど、狩沢」
「絵理華ちゃんでいいよぅ。むしろ絵理華でも良い…じゃなくて!そんな可愛い顔したらドタチンが惚れちゃうじゃない!イザイザは私の嫁なのに!」
「……いや、可愛い顔って何。ってか、ドタチンが惚れるとか意味が分からないんだけど」
「ドタチンだけじゃないよ…もしかしたら今イザイザの微笑みを目にした男の人は全員イザイザに惚れたかもしれない…何ソレ美味しい…(ブツブツ)」
「…えーっと、絵理華…ちゃん?おーい……」