DRRR

□おやすみ
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◎『合縁奇縁』設定
◎時間軸は『おはよう。』の後辺りですが、勿論単品としても読める…はずです(苦笑)



「臨也……」

薄暗い部屋。静まり返ったその空間を、津軽の呟きが静かに揺らす。
空気を揺らしたその声は、しかし、目の前で眠る臨也には届かない。

基本的に、臨也の眠りは浅い。

それは、年中無休で刻一刻と変化する、情報と云う、ある種の生ものを扱う【情報屋】である臨也には、職業病ともいえるだろう。
情報を伝える携帯電話の着信を、聞き逃さない為には、仕方のない事。

しかし、今の臨也は深い眠りに入っている。
熱を出し、体力を消耗した臨也には、意識の覚醒するギリギリで眠りに着くと云う器用なまねは出来なかったらしい。

触れても起きない事を確認して、津軽はその髪を梳く。

汗で僅かに貼りついた髪を払い除けながら、ただ、眠る臨也を見つめていた。

◆ ◇ ◆


眠る臨也は、静かだ。

普段よく話し、よく笑い、よく動いてその存在を主張する臨也だが、眠るときには、途端にその存在が希薄になる。
吐き出される寝息も静かで、寝相も悪くないので初めに布団に入った体制からピクリとも動かない。

触れても反応を示さない、声をかけても寝言すら帰ってこない。

だから、俺は。

「臨也…」

臨也が眠る度に、不安になる。

このまま、存在が消えてしまうのではないだろうか、何て。
大凡現実ではあり得ない事を、考えてしまうのだ。



臨也が眠るベッドに手を掛ける。
小さく、ベッドのスプリングが悲鳴をあげた。

シーツに皴が寄る。

それでも、臨也は動かない。

覆いかぶさるように臨也の上に跨って、その体を抱きしめた。

「ん…」

漸く、小さな声を漏らした臨也は、だがそれでも目を覚ます事はない。
普段よりも高い体温を抱きしめながら、俺は、ソレを求めて頭の位置を下げて行く。

ぴったりと耳をくっつけて、臨也の体に響く音を探した。

トク…ン、トク…ン、

小さく、しかし確りとした響きを持って一定の速度で動くそれを耳にして、俺は小さく息を吐く。

20歳もとうに超えた、良い大人のする事じゃないのは分かっている。
子供じみた行為だと、自覚もしている。

それでも。

俺は、この音を聞いてようやく、臨也が確かにここにいるのだと、安心できるのだ。

臨也の胸に耳を付けたまま、俺は静かに目を閉じた。

◆ ◇ ◆


息苦しくて、目が覚めた。
胸が圧迫されているかのように、息が詰まる。

「ん…」

息苦しさから逃れようと、体を動かそうとして、気付く。

「あ…あれ?」

動かないのだ。
何とか視線だけを動かして周りを見渡せば、自分の胸のあたりで、金色が揺れている。

「つ…津軽?!」

まるで俺を抱きかかえる様に、俺の胸に頭を乗せた津軽は、どうやら眠っているらしい。
俺の声に反応したのか、俺を抱える力が強くなった。

津軽が、こう云う行動をとるのは、初めての事じゃない、けど。

「前にされたのは小学生のころだったし…なぁ」

津軽が海外へと引っ越して行く前は、家が近所、親同士も仲が良かったと云うこともあって、よくお泊まり会をしたものだ。
その度に、朝起きれば津軽は俺に抱きつくように眠っていた。

あの頃は良かった、津軽の方がお兄さんなのに、この時ばかりは俺がお兄さんになったみたいで、楽しくもあった。
目を覚ましてもなかなか動こうとしない津軽の頭をなでて、手を繋いで朝食へ向かう。
それが、いつの間にかお泊りの日には当たり前の様になっていた。

だけど、今はあのころとは違う。
俺も津軽も20歳をとうに超えた大人で、津軽はあの頃より…もっと、ずっと格好良くなっていて。

つまり、俺が何を言いたいのかと云うと。

「臨也…起きたのか?」
「つ、津軽」

俺の身が持たないんだよ!
主に羞恥とかそういう意味で。

「あ」

津軽が何かに気付いた様に声を漏らした。

「な、なに?」
「早くなった、な」
「〜〜〜〜ッ!!」

一気に、顔に熱が集中する。
心臓がまた、可笑しな跳ね方をした。

「お、また早くなった」
「つ、津軽!」

小さく笑いながら、いまだに俺の胸に耳を当てている津軽に、思わず叫ぶ。
あんまり聞かないで欲しい。

ポーカーフェイスは得意な俺だけど、流石にココは繕う事など出来ないのだ。
表情も感情も繕えない、心臓の音など、聞かないで欲しい。

「…臨也、体が熱い。熱が上がったのか?」
「え…いや、あの」

そう云う訳じゃ、ないんだけど。

だけど津軽は完全に俺の体温が羞恥によるものではなく、風邪によるものだと勘違いしたらしい。
慌てた様子で体を離すと、圧し掛かっていた体を退けて、布団をかぶせる。

「悪い、臨也の体調を考えてやれなくて…」
「良いよ、別に…いやじゃなかったし…ね」

ポン、ポン、と、一定のリズムで布団を叩く津軽にお母さんみたいだ、何て見当違いなことを思いながら、俺は目を閉じた。

あぁ、そうだ。
また目が覚めた時にあんな事になっていたら、多分俺は今度こそ爆発してしまうだろうから、せめて。

「ね、津軽…」
「ん?どうした、臨也」

せめて、これ位でとどめておいてほしい、な。

「起きるまで、手、繋いでてよ」
「よしきた、任せておけ」

人の、津軽、の。体温は、とても心地が良いから、ね。

おやすみ、(その声で、繋がれた手の温度で、俺は緩やかに眠りに落ちて行く)

(臨也…可愛い……)
(すぅーすぅー)
(手…あったかい、な。脈も分かる、生きてる。此処にいる)
(すぅ)
(でも…やっぱりこっちの方が…/ゴソゴソ)
(…んぁ…息苦し……って、津軽?!!!何でまたこうなるのさ?!)
(こっちの方が落ち着くなぁ…/うとうと)
(ちょ、つが…津軽!あわわわわわ、ちか…近い!!///)
(ん…いざやぁ/むにゃむにゃ)
(あわわわわわわわ///)



End.

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