DRRR

□君ト謀計。
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「い…臨也……!!」

感極まったように、平和島静雄はその手に持っていた道路標識を地へと落とした。

時刻はAM11:58分、四月一日の出来事。


◆ ◇ ◆



時は数時間前までさかのぼる。

場所は池袋西口公園。
折原臨也は時計台の下に居た。

「おっはよぅイザイザ♪今日も可愛いね、天使だね☆」
「お…は、よう、狩沢…」

普段通りの狩沢に、なぜか臨也は気落ちしたような言葉を返す。

「?イザイザ、どうしたの?何かあった?」

目聡く気付いた狩沢は問えば、臨也は苦く笑いながら答えた。

「あぁ…いや、違うんだ。狩沢はいつでも通常運転なのはわかってるんだけど…つい、ね」

今日はほら、エイプリルフールだろう?

告げられた言葉に、狩沢は目を丸くする。
それは、つまり。

「イザイザ可愛くない、愛してない!……あぁあああ駄目だ、例え嘘でも可愛いものを可愛くないとはいえない…!と言うわけでイザイザ、やっぱり可愛いよぅあいしてるぅぅぅう!!」

普段「俺は可愛くない!」と、顔を赤らめて怒る(と言うか単純に照れているのだと狩沢は解釈している)臨也だが、嘘だと思って落ち込むということは、やはり嫌ではなかった、と言う事なのだろう。


ぎゅうぎゅうと臨也を抱きしめながら、「イザイザが天使過ぎて生きてるのがつらい!」などと騒いでいた狩沢だったが、不意に言葉をとめると、抱きしめた状態のままで臨也に告げた。

「ねぇ、イザイザ。せっかくのエイプリルフール、ちょっと大きな嘘、仕掛けてみない?」

ニヤリ、

そんな表現が似合う笑みで続けられた【嘘】の内容に、臨也も同じような笑みを浮かべた。

そして、二人は足を進める。
二人で考えた、【嘘】を実行するために。


AM.11:00の事だった。


◆ ◇ ◆



二人は歩く。
人々の「珍しい組み合わせだ」と言うかのような好奇の目も気にすることなく、池袋の中を歩き回った。



11:40


「いーざーやーくぅーーーん?」

日常的非日常を始める声が響く。

「イザイザ!シズちゃん居たよ!!」
「うん、探し回ったかいが有ったね、狩沢」

青筋を浮かべた静雄に、二人は怯むことなく、むしろ嬉々とした様子で表情をほころばせた。

「あ゛?」

意味が解らない、と言うように、静雄は声を上げる。

そんな静雄に笑んで、臨也は一歩、前に出た。

「やぁシズちゃん、会いたかったよ」
「手前……今度は何を企んでやがる」

すでに片手に標識を掲げた、臨戦状態の静雄の言葉に、臨也は悲しげに目を伏せてみせる。

「そんな…そりゃ、シズちゃんからすれば俺はまともな仕事なんてしてないけど…さ、今日は本当に、シズちゃんに会いたかっただけなんだ」
「な…」

ご丁寧に瞳まで潤ませた臨也に、静雄は一瞬言葉を亡くした。

「本当だよぅ?シズちゃん。イザイザ、シズちゃんに会いたくてずっと私と一緒に池袋歩いてたんだから」
「12時……お昼までに見つからなかったら諦めようと思ってたんだ…シズちゃんは俺をすぐに見つけられるけど、俺はシズちゃんみたいな高性能な探知機なんて持ち合わせてないからね…」

少し離れた場所から言葉を付け足した狩沢に、小さく頷いて続けられた臨也の言葉に、静雄の動きは完全に止まる。

「マジ…なのか?」

小さく首肯しながら、臨也は照れたように頬を染めて口を開いた。

「シズちゃん…君に、伝えたい言葉があったんだ」

言い難そうに数度口を開閉させて、それから、意を決したように静雄を見つめる。

「俺、シズちゃんのことが…好き、なんだ」

「、え」

「ごめん…男同士なのにこんなの…気味が悪いよね…でも、俺、伝えておきたかったんだ。狩沢と付き合ってるくせに何言ってるんだ、って思うかもしれない、俺も非道いと思うけど…狩沢はそれでも良いって言ってくれたんだ。受け止めてほしいとはいわないよ、ただ、知っておいて欲しかっただけなんだ…行き成りこんな話して、ごめんね、シズちゃん。大好き……だよ」

11:57

そして、時は【今】と繋がった。


◆ ◇ ◆


(さて、シズちゃんはどんな反応を見せるかな?気味悪がる?引く?怒る?それとも…答えに悩んで考えあぐねる?)

標識を取り落とした静雄を視界の端に捉えながら、臨也は気付かれない様に僅かに口角を持ち上げる。
そっと、傍に控えている狩沢へと目配せをすれば、彼女は満面の笑みで親指を立てた。

しかし、臨也は知らない。

静雄が絞り出すように声をあげた理由も、彼女の満面の笑みの理由も。
次に彼から飛び出す、言葉すら。

「お…俺も好きだ!」
「………へ、?」

静雄のあげた声に、臨也が思わず間の抜けた声をもらす。
しかし、すぐに我に返ると、口を開いた。

「し、シズちゃんも俺を騙そうって魂胆なんだね?」

今日はエイプリルフール。
すっかり忘れているだろうと思っていたが、きっと静雄は覚えていたのだろうとあたりを付けた臨也は、張り付けた様な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

「俺を騙そうとしたってそうはいかないんだから、」
「騙す?何の話だ?……そうか、そうだよな、今まで殺し合いしかしてこなくて、手前は俺が手前の事を嫌ってると思い込んでたんだもんな、いきなり告白して、返事がOKだったから信じられないんだろう?大丈夫だ、嘘なんかじゃねぇ。誓っても良い。俺は…俺も、お前の事が、きちんと好きだ」

珍しく長々と言葉を操る静雄に、臨也はしばし呆然とした後で携帯に手を伸ばした。


嘘に違いない。
シズちゃんが俺の事を好きだなんて、そんな事、天地がひっくり返ったとしても……


あり得ない、そう思いたかった。


ディスプレイを確認する、時刻は、12:03。

「嘘じゃ……ない、のかい?」
「だから、そう言ってんだろ、何で手前はさっきから俺の言葉を信じねぇんだよ」

一般的に、エイプリルフールに嘘をついても構わないのは正午までとされている。

そのルールを静雄が知っているとは思えなかったが、しかし、照れたようにそっぽを向きながら、何処かぶっきらぼうな声で答える静雄が、演技だとは思い難かった。

思わず視線を狩沢へと向ける。
視線の先の彼女は、非常に良い笑顔を浮かべていた。


この瞬間、臨也は味方が居なくなった事を悟った。


彼女の笑顔は語る。「シズイザ大変ぷまいです、良いぞ、もっとやれ★」

「し…シズちゃん、ごめん、本当にごめん。実は…その、俺が君の事をずっと好きだったってあれ、嘘なんだ?ほ、ほら。今日はエイプリルフールだろう?狩沢とどうせなら大きな嘘でもしかけてみようって話になって…えっと…その、シズちゃんの俺の事が好きってのも、嘘、だよ…ね?」

最後の望みをかけて、臨也は静雄に問う。
ネタばらしをしたのだから、嘘だったとするならば静雄も種明かしをしてくれるだろう、そんな気持ちで。

「嘘?手前のさっきの告白が、か?……そうか、今日はエイプリルフールだったな…いや、いい、気にするな。エイプリルフールに告白すれば、例え断られても【嘘でした】でごまかせると思ったんだろう?そう云う気遣いはいらねえ、本当に、エイプリルフールとかそういう事は抜きにしても、俺は手前の事が好きだ。嘘じゃねぇ。今日言う言葉が信じられねえなら、明日でも、明後日でも、お前が望むなら毎日でも言ってやるよ、好きだ、ってな。だから、自分を偽らなくたっていいんだぜ?」

やたらと爽やかな笑顔で告げられた言葉に、最後の望みは儚くも打ち砕かれた。

目を見開いて固まってしまった臨也に、静雄は、フ、と表情を緩めると、その髪に触れる。

「今日は、何を言っても無駄だろうからな、また明日、答えてやるよ」

ポンポン、と、柔らかく叩かれた頭は、全く痛くなかった。

「それじゃぁ、な」

静雄は、軽く手をあげて去って行く。


臨也が動きを取り戻したのは、それから数分後、

「いやぁ〜、シズイザ大変美味しかった!ごちそうさま」

にこにこと相変わらずの満面の笑みをうかげている狩沢が、満足げに呟いた頃だった。



君ト計。
(キミとウソをシカケル。)




「狩沢…どうしよう、俺、嘘って確り断言出来てないんだけど……」
「ん〜、大丈夫!明日からシズちゃんが迫ってきたら全力で守ってあげるから☆」
「狩沢…(キュン)」

【後日】

「イーザーヤァアア!」
「良かった、シズちゃんいつも通りだ…(ほっ)」
「好きだぁああああ!!」
「やっぱり昨日のは嘘じゃなかった?!!」
「当たり前だろ!逃げんじゃねぇ臨也!」
「か…狩沢ぁぁあああああ!!(半泣)」

バコーン★

「ぐふぁっ!!」(悶絶)
「もー!シズイザは大変美味しいけど、昨日のあれはエイプリルフールの嘘なんだってば!イザイザは私の嫁なんだから、いくらシズちゃんでも手を出しちゃだめ!!」(手には金槌)
「狩沢ぁ…!」
「よしよし、イザイザ怖かったよね、もう大丈夫だよ!」

こうして、平和島静雄が愛を叫び、折原臨也が半泣きに成りながら逃げ回ると云う光景が、新しく池袋の日常へと組み込まれるのであった。


End.
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