DRRR

□はせいと!
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クツクツクツ。
コトコト。
トントントン。

聞こえてくる生活感あふれる音を、存外俺は気に入っている。
音のする方向から、ふわりとただよってくる香りも、同じく。

何より、その音を、香りを。
自分以外が作り出していると言う事が、何よりも素晴らしい。

それはつまり、

「臨也、夕飯出来たぞ」

俺の為に、誰かが食事をつくってくれている、と云う事だからね。


◆ ◇ ◆


「花形にんじんに愛を感じるよ……ツパチン、らぁぶ」

飾り切りされた人参を、綺麗な所作で持ち上げながら、間延びした様な声で臨也が笑う。
その言葉一つで、その笑顔一つで。オレがどれだけ幸せになれるか、なんて、きっとお前は知らないだろう。

器の中の里芋に箸を刺す。「刺し箸はマナー違反だよ」と臨也は笑うが、オレからすれば、どうして里芋を綺麗に箸でつまむ事が出来るんだ。そっちの方が疑問である。

そんな事を考えながら、里芋を口へと運んだ。……うん、我ながらいい塩梅だな。


◆ ◇ ◆


「それにしても」不意に、臨也が口を開く。

「ツパチンも料理上手くなったよねぇ…」

里芋を器用に箸でつまみあげながら、感慨深げに呟かれた言葉に、オレはこっそりと苦笑いを零した。

そりゃ、上手くもなるだろう。
お前が、京平の作る物に目を輝かせて、心から嬉しそうに笑うのを、見てしまったら。
オレにだって向けて貰いたいと、思ってしまうにきまっているじゃないか。

料理なんて、これまでの人生一度もやった事が無かったオレが、京平に頭を下げて教えを乞う程に、あの瞬間の、臨也の笑顔はヤバかった。

だって、なぁ?考えても見ろよ。
今まで誰に対しても薄い笑みを浮かべる程度だった奴が、だぞ?
料理一つで、今まで見た事無い位の笑顔になるんだぞ。

破壊力は抜群だと思わないか?

そんなこんなで、俺は京平に料理を教わり、今ではこうして月に何度か臨也の家で食事をつくるまでになった。

「美味いか?」
「うん、美味しい」

問えば、京平に向ける様なものではないが、他の奴に向ける物とも違う、綻ぶような笑みを見せてくれる。

その事に喜びつつ、パクパクと食事を口に運ぶ臨也の様子を見ていたオレは、ふ、と。あるものに目が行ってしまった。
先程「刺し箸はマナー違反だよ」と窘められたことからも分かるように、臨也はマナーと云うか、礼儀作法に対しては厳しい方だ。

特に食事中のマナーは確りとしていて、汚い食べ方はあまりしない。
現に、今だって、殆どの食器の中身は均等に無くなっている。
…そう、ある一つを除いては。

「臨也、椎茸もきちんと食べろ」
「ツパチン。シイタケが無くても人は生きていけると思うんだ」
「駄目だ、食べろ」

煮物の入っていた器の中に、何時までも箸をつけられる事無く残された椎茸を軽く指差しながら告げると、臨也はムスリと膨れ面をして見せた。

そして、

「俺………ツパチンのそう云う所、嫌い」

子供の様に不貞腐れながら、そんな事を呟いた。


◆ ◇ ◆


「キ…キラ……ッ?!」

臨也の一言に、高平は動揺したかのように言葉を詰まらせる。
そして、次の瞬間にはオロオロと視線を彷徨わせ始めた。

高平は、臨也からの「嫌い」という言葉が大の苦手である。
その言葉を聞いた途端、彼の思考は全停止してしまう程に。

「椎茸残してもかまわないから、嫌いなんて言うな。頼むから」

こう云ってしまえば、恐らくすぐに高平の耳には、

「本当?……ふふ、ツパチンは優しいなぁ。俺、ツパチンのそう云う優しい所、大好きだなぁ」

などと、柔らかく響く臨也の言葉が飛び込んでくるのだろうが、現実はこうはいかない。

高平は絶対に「残しても良い」とは口にしないからだ。
それを許してしまえば、あれもこれもと残ってしまう事を知っている。

食事の所作は綺麗な臨也だが、彼の好き嫌いは思いのほか激しい。

だから、高平は毎度の料理で様々な工夫を施している。
本日の煮物に入っていた花形にんじんも、その一つだ。

飾り切りによって味をしみ込ませる、と云うのも勿論理由の一つだが、野菜があまり好きではないらしい臨也に食べて貰えるように、と、見た目愛らしい花形にしたのだ。

飾り切り一つで箸を付けて貰えるなら、それくらいの労力は安い物だと思う高平の思考は、何処か主夫のようにも感じる。

椎茸も飾り切りするべきだったか?と心中で小さく呟きながら、高平はゆっくりと口を開いた。

「臨也、椎茸にはカルシウムが骨になりやすいように手伝ってくれるビタミンDって言うのがたくさん入ってるらしいんだ。お前は…良く、平和島静雄との喧嘩で怪我をして帰ってくるだろう…?骨折してる所は、あまりみた事無いけどな、でも、万が一って言うこともある。オレは…お前に怪我をして貰いたくない。だけど…きっと何を言っても喧嘩を止める事はないだろうから、せめて、丈夫になってほしいんだ。」


◆ ◇ ◆


「ツパチン……」

目の前で、俺を諭すかのようにゆっくりと告げてくるこの子は、本当に俺より年下なんだろうか。
ツパチンと話していると、俺が小さな子供になった様な…彼の子供になったかのような、そんな錯覚を受ける事がある。

カルシウムとか、ビタミンDとか。俺の為に勉強してくれたんだろうか。
あまり学校の勉強は得意ではない、この子が。

そんな良い子を、困らせている俺って、なんなんだろう。

シイタケは好きじゃない。
きのこ類には総じてビタミンDが多いんだから、別にシイタケ一つ食べなかった位で、何の問題もないじゃないか。

そう、理屈をこねる事は、簡単なんだけど。

「何で、シイタケなの?」
「あぁ、茸類にはビタミンDが多いらしいんだけどな。干し椎茸は普通の茸達よりもそれが多いらしいんだ。旨味も増すらしいしな」

俺の質問に、「良いから食え」なんて投げやりな言葉を返すでもなく、きちんと説明をくれるツパチンは、本当に俺の事を考えてくれているみたいで。
これ以上、ツパチンを困らせたくないな、と。柄にもなく思ってしまった。

「……分かった、食べる」
「そうか」

何処か嬉しそうに表情を緩めるツパチンに、俺は思わず思っていた事を口にしてしまった。

「ツパチンって…俺のお父さんみたい」
「………そうか」

あ。このシイタケ、美味しいかも。

――新宿、夕飯時にて。

End.

(臨也、父親と云うなら京平の方がらしくないか…?)
(ん?あぁ…ドタチンはお母さんだから)
(……成程)





+++後書き+++

ドタチンはお母さん。
なればツパチンはお父さんで。(え)

と、云う訳で、今回はお父さん編でした(マテコラ)
ツパチンの下の名前「高平」は割とすぐ決まりました。「high school=高校→高平」です。名字もサクッと決まりました、が。漢字をあてるのに凄くもんもんとしてしまいました(笑)
実は津波田(つなみだ)(最初の当て字案はこれでした)で、臨也君が「つぱだ?」と読み間違え、「ツパチン!」でも良いかな、と思ったのですが、分かりにくいかも、と云う事で却下。

『ぱ』を『播』にするか『派』にするかで凄く悩んだとかどうでもいい。
実は「つわだ」とかで、聞き間違いで「つぱだ」でもいいんじゃないかとか、考え出したら止まらないのでバッサリ切りましょう(笑)

彼の口調はまだ模索中です。
もっとつっけんどんで口の悪い感じでもよかったかも知れません。

「ツパチンきらーい」
「ききききき嫌い…?!(ズーン)」

みたいな二人が書きたかったので、何とか入れ込めて満足してます。


臨也君が椎茸嫌いかどうかは知りません(え)泉は大好きです(聞いてない)
好き嫌いに関してはお子様味覚とか。飾り切りとか型抜きの野菜を喜んで食べるとか。
そんな臨也君も可愛いよね。


2011/08**




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