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□花言葉を、貴方へ。
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「ドタチン」
緩く笑むお前に、思わず溜息をついてしまいそうだと言ったら、お前はどんな顔をするだろうか。
――花言葉を貴方へ。
五月の第二日曜。
俗に母の日と呼ばれるこの日に、臨也が俺と行動を共にしているのは、訳がある。
今日から数日遡った、五月四日。
その日は、臨也の誕生日だった。
◆ ◇ ◆
「誕生日、おめでとう」
告げた言葉に、臨也は笑う。
[ドタチンくらいだよ、こうやって律儀に連絡をくれるのなんて]
電波に乗ったその音が、何処か嬉しそうに聞こえたのは…きっと、俺の幻聴だ。
だけど、本当に臨也が喜んでいたらいいと、心の中でそっと祈る。
高校時代から続いているこのやり取り。
普段なら、この後食事にでも誘うのだが、生憎と今日に限って仕事に都合を付けられなかった。
だから、
「臨也、近いうちに食事にでも行かないか?」
[毎年、ドタチンも律儀だねぇ……そうだなぁ、それじゃぁ、来週の日曜日とか、どうかな]
「あぁ、大丈夫だ。それじゃぁ…日曜日に、な」
簡単な約束を取り付けて、その日は通話を切った。
◆ ◇ ◆
そして、今に至る。
待ち合わせ場所に来た臨也が、俺に向けて開口一番に告げた言葉が、俺の頭を悩ませている訳だ。
「ドタチン、これあげるよ」
にこりと緩く笑んで、差し出された、一輪の、花。
鮮やかな赤色を呈するそれは、五月に入ると花屋で良く見かける物だ。
そして、それを差し出されるのは、世で言う―――
「……俺は、お前の母親か?」
堪え切れず、短く溜息をつきながら零した言葉に、臨也は相変わらず笑んでいる。
「別に、ドタチンが俺の母親とは思ってないさ。いつもの感謝と……」
其処で一度言葉を区切り、臨也は小さく呟いた。「俺の気持ち、かな」
「…は?」
気持ち、と言われても、それはやはり俺を母親の様にしたっている、と言う訳ではないのだろうか。
その花に込められる言葉は、【母の愛】【純粋な愛情】だったはずだ。
流石に花言葉には詳しくないので、一般的な物しか知らないが。
俺の間の抜けた声にも、表情にも、特に気にする様子も見せずに臨也は俺の手を引いた。
「さ、ごはん、食べさせてくれるんだろう?」
まるで、「この話題はお終い」と言うかのように言葉を放つ臨也に頷いて、俺は予定していた店へと足を進める事にした。
◆ ◇ ◆
食事を終え、帰る道すがら、臨也が口を開く。
「ドタチン。濃赤と黄色は母親にあげちゃだめなんだよ。白いのも、生きてる母親にはお勧めしないね。あげるなら、ピンクか、赤。それから…奥さんにあげるなら青いのも良いんじゃないかなぁ」
何の話だ、と、一瞬突っ込みそうになったが、言葉の内容から推するに、さっき貰った花の事なのだろう。
白い花は、確か死んでしまった母親に送る、と聞いた事がある。
「そんなに色があるのか」
感心したように呟けば、「まぁね、」と返して、臨也はさらに続けた。
「一口に花と言っても、花の名前につけられる代表的な花言葉だけじゃなくて、色や咲き具合によっても意味が違ってくるんだ。ドタチンも、誰かに花をあげる時はちゃんと調べた方が良いよ?気にする人もいるから、ね」
くすくすと笑みを零す臨也に、成程、と感心する。
それなら、お前のくれたこの花にも、俺の知らない花言葉があるのだろう。
【母の愛】ではなく、お前が、俺に向けた言葉が。
帰ったら調べようと、浮足立った調子で家路へ帰る俺は、まだ知らない。
うっかり失念していたのだ。
……捻くれた所のある臨也が、解りやすい物をくれるはずがないと云う事を。
赤いその花に、幾通りかの意味があると云う事を。
俺がそれに気付き、臨也の気持ちがどれを示すのか悩みだすまであと30分。
答えが見つからずに臨也に直接聞きに行くまであと15時間。
俺が淡い期待を抱きつつ、自分の予想を尋ねるまであと15時間と10分。
臨也が照れたように笑みながら答えを口にするまで、あと―――
二人が同じように頬を染めるまで、あと―――
End.
(。ヘタナア、ヲイア、ナツレツネ)