DRRR
□君ハ僕ノ
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グラグラ、ユラユラ。
揺れる視界に、目を閉じる。
「イザイザ大丈夫?」
隣で心配そうな狩沢の声が聞こえたけど、ちょっと今はいつも通りに返せる気がしない。
「うん…無理、寝る」
毛布を首まで掛けて、目を閉じたままで言葉を返した。
そんな俺に、小さく笑う気配。
穏やかな声で、狩沢が呟いた。
「イザイザ、乗り慣れてそうなのにねぇ」
「何回乗ってもこれだけはなれないんだよ…機体が安定したら起きるから、それまでちょっと寝かせて」
何度乗っても、乱気流にのまれて機体が揺れる事には慣れる事が出来ない。
起きていても気分が悪くなるだけだから、俺は何時も眠るのだ。
無理やりにでも眠ってしまえば、その一時だけは気分の悪さも忘れられる。
そっと、狩沢の指が俺の額に触れた。
前髪をはらう様にそのまま指を動かされて、くすぐったさに思わず身じろぐ。
「……せっかくの新婚旅行なのに…」
ポツリと、残念そうな声が聞こえた。
でも…一つだけ訂正しても良いだろうか。
確かに、俺は狩沢の嫁で、狩沢は俺の旦那様だけど、俺達はまだ結婚していない。
いや、そりゃ…えっと、そのうち……とか、考えない事はないけど、今回はただ単に二人で旅行に来ているだけだ。
だけど、やっぱり初めて二人で遠出するんだから、せめて起きていないと狩沢に悪いかな、何て云う俺の考えは、次の狩沢の言葉によって簡単に裏切られる。
「……なんて、私は残念がったりしない!むしろこれはイザイザの寝顔を激写するチャンス☆」
先程までとは打って変わって弾んだ声を響かせる狩沢に、「相変わらず予想以上の反応を見せてくれるなぁ…」なんて心中で呟きながら、俺はゆっくり体を起こした。
そして、静かに机を出して、枕を机の上に置き。
「あぁー!イザイザ、何でうつぶせて寝ちゃうのよぅ!」
狩沢が隣で騒いでいるのが聞こえたけど、気にしない。
だって、ほら。
撮られるのが分かってて仰向けに寝られる訳ないだろう?
「…まぁいっかぁ。おやすみ、イザイザ」
……狩沢に気を取られて、少し気分が楽になった事には、気付かない、ふり。
君ハ僕ノ、
(薬箱、なんてね)
End.