DRRR

□行動原理。 -前-
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階段の一段目。
取り付けられた簡易的な鈴。

三度、軽く鈴を揺らす。
賽銭は放らない。
二度、頭を下げる。
柏手(かしわで)を二度。
最後にもう一度頭を下げて、僕は心中で叫んだ。

(臨也!)


◆ ◇ ◆


『新羅じゃないか、どうした?』
「セルティ…」

ふわり、と舞い降りる様に新羅の前に立つのは、この神社の神たるセルティだ。
眷族ではない新羅に、彼女の声は聞こえない。

故に、彼女は新羅に向けてPDAに打ち込まれた文字を見せている。

『臨也ならいないぞ?ここ数日は、新宿に行っているからな』
「新宿?!またなんで…」

驚いた様な声をあげる新羅に、セルティは困った様子で文字を返した。

『それが…私にもよく分からないんだ。私が会合に行っている間に何かあったらしくてな……突然、「明日から新宿まで足をのばす」なんて言われてしまったんだ。…そうか、新羅も知らなかったんだな……』
「僕が最後に会ったのは、君が会合に行った次の日さ。その時は…特に変わった様子もなかったのだけど…」

『それなら、矢張り私が帰って来た日に何かあった、と言う事なんだろうな…』

うぅん、と、考え込む様に沈黙する二人に、背後から声が掛る。

「岸谷?…それに、セルティまで。どうしたんだ?こんな所で」

「『門田(君)!!』」

振り向けば、京平が不思議そうな面持ちで立っていた。

「僕は臨也が、最近全く池袋に顔を出さないからどうしたのかと思ってきたのさ。君は?」
「あぁ、俺は…狩沢が欲しい物が決まったと云うから伝えにきたんだが…いないのか?臨也」

京平の問いに、新羅とセルティは首肯する。(もっとも、セルティの方は分かりにくい物であったが)

『新宿に行っている』

PDAに打ちだされた文字に、軽く驚いた様な様子を見せて、京平は「そうか」と頷いた。

「それじゃぁ…臨也が帰ってきたら、明日こちらまで来るように伝えてくれないか?」
『分かった』

返された返事に緩く笑んで、京平は踵を返す。

「門田君!」

その背に向けて、新羅が声を投げた。

「明日、僕も君の所へ行っていいかい?」
「構わないが…岸谷、家の神社、場所分かるか?」

その言葉に、新羅は笑う。「大丈夫さ」

「僕は神社の位置を知らないけど、臨也についていけば問題ないだろう?」

「成程」と、納得したように京平は頷いた。

「それじゃぁ、明日な。岸谷」
「うん、それじゃぁね、門田君」

軽く手をあげて、京平は人込みに紛れて行く。
それをしばし見送って、新羅はセルティへ向き直った。

「そう云う事だからセルティ。明日も来るね」
『あぁ、臨也には私から伝えておく。時間帯は…そうだな、また追って教えるよ』
「分かった。それじゃぁ…そろそろ僕も帰るね?神様をずっと引き止めておくのも悪いし」

冗談めかして小さく笑んだ新羅に、セルティも小さく微笑んだように新羅には感じた。

(あぁ、臨也なら、彼女の感情を正確に読み取れるのだろうけど)

此処にはいない友を思いながら、新羅は心中で小さく呟いた。


◆ ◇ ◆


「ただいま」

楽し気に声を零しながら、臨也が神社の敷地へ足をつける。
そんな臨也に掛け寄りながら、セルティは『おかえり』とほほ笑んだ。

『さっき、新羅と、門田が来たぞ』
「え、新羅とドタチンが?また珍しい組み合わせだね」

驚いた様に瞳を瞬かせながら、臨也は「それで?」と、言葉を促す。

「ドタチン達、何の用だって?」

その声に、『あぁ』と相槌を打って、セルティは二人から告げられた事柄を掻い摘んで説明した。

新羅が心配していた事。
狩沢が欲しい物が決まったと言っていたらしい事。
明日、門田の所まで来て欲しいと云う事。
それに、新羅が臨也と共に着いて行きたい、と言う事。

話を聞きえ終えて、臨也は笑う。
楽しそうに、嬉しそうに。

「そっか、狩沢、欲しいもの決まったんだ。…それにしても、新羅がドタチンの所に行きたい、何て初めてじゃないかい?」

『あぁ、場所が分からないから一緒に連れて行って欲しい、と言っていたぞ。出発の時間が決まったら連絡すると言っておいたから』
「分かった。それじゃぁ…あんまり早く行っても迷惑だろうし、お昼位にしようかな」

呟いて、臨也はセルティに問うた。

「セルティ、神木の葉を一枚、貰っても良いかい?」

その問いに、セルティは快諾して見せる。『当然だ』と。


◆ ◇ ◆


新羅の家に、一羽の小鳥がやってきた。

初めはベランダの手摺りにつかまっていたその小鳥は、暫くして、窓ガラスをその嘴でつつき始める。

コツコツ、コツコツコツ。

テンポ良く刻まれるその音に、新羅が気付くまで、後数分。
「煩いなぁ」と呟きながら窓を開けるのは、其処から数秒後の話。

窓を開けられた途端、小鳥は彼に向かって飛び込んでゆくはずだ。

そして、

「……え?」

驚く彼の目の前で、小鳥はその姿を本来の姿へと戻すだろう。
神木に茂った、一枚の青葉へと。

そして、彼は笑うはずだ。

「葉っぱの手紙とはなかなか趣があって面白いじゃないか」

等と呟きながら。

青葉には、【明日十二時三十分、神社の石段にて待つ】と記されている。


◆ ◇ ◆


翌日、12:25。

新羅は神社の石段前に来ていた。
鳥居の向こうに、臨也の姿は見えない。

「ちょっと早かったかな…でも、まぁ呼べばいいか」

小さく呟いて、新羅は一歩、石段へと足を掛けた。

鳥居を、くぐる――――――

「やぁ、いらっしゃい新羅、早かったね」

瞬間、掛けられた声に新羅は思わず肩を跳ねさせた。
目の前には、本来の姿を見せた臨也が緩やかに笑んでいる。

「臨也?!え、今の今までいなかった……よね?」

確かめる様に問えば、臨也は悪戯が成功した子供の様な表情で首を振った。

「何言ってるんだい?俺はずっと、ここで君を待っていたよ」
「え、でもさっきまで姿が……」

臨也と鳥居の外を交互に見やりながら、やや混乱している様子の新羅に、臨也は笑うばかり。

『臨也は、人型を模していない時は神社の外から視えないんだ』

新羅の疑問に答えたのは、いつの間にか石段を下って来たセルティだった。

「え?そうなのかい?」
「あぁ、外で元に戻っても、目の前で俺が本性を現さない限り、普通の人には見えないはずさ」
『境内でこの姿でいても、臨也の事を知らない人間には眼に映らないようになっている』

付け加える様に続けられた言葉に、「へぇ」と納得した様な声を零して、「だから」と言葉を繋げる。

「この間、僕が様子を見に来た時に君が元に戻っても、誰も何の反応も見せなかったんだね」
「そう云う事」

何処か得意げに、臨也は笑って見せた。


◆ ◇ ◆


「さて、それじゃぁそろそろ行ってくるよ、セルティ」
『あぁ、行ってらっしゃい、臨也』

軽く手をあげて、臨也がセルティへ告げる。
それに答えながら、セルティは穏やかな声で続けた。

『楽しんでこい』
「うん、ありがとうセルティ」

その言葉に、ゆっくりと頷いて、臨也は新羅の腕を引く。

「さぁ、行こうか」
「うん」

石段から一歩足を下ろし―――
臨也は、数週間ぶりに池袋へと足を踏み入れた。

(私があなたに会いに行く)

行動原理。

(友人であるあなたが、心配で仕方ないのです)


End.
(ちょっと臨也!腕を引かれてる感覚は有るけど…君の姿が全く見えないよ!)
(え?…あぁ、この姿のまま神社から出ても、新羅には見えないのか……かと言ってここで一回戻るのも誰かに見られそうだし…あ、そうだ。)

ポン、と可愛らしい破裂音が小さく響く。

(え……臨也、なのかい?この子狐)
(俺はもともと狐だよ?元の大きさでも良いけど、このほうが抱きやすいだろ?)
(…つまり、僕に抱えて行けってことなんだね?)
(くゅーん)
(はぁ…ちゃんと道案内してよね?)

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