DRRR

□かりいざ!
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【今年もやるぞ。来られそうか?】

端的で短いメール。
らしいな、と思いながら、俺は返信画面を開いた。

【勿論。】

――恒例行事


年に一度。俺とシズちゃんが全く喧嘩をしない日がある。
それが、この、ドタチン主催の餅つきの日だ。

この日だけは、俺もシズちゃんにちょっかいを出さないし、シズちゃんも俺を見て青筋を立てる事はない。
ついでに言えば、集合場所はドタチンの家だから、池袋に来たからといて何か企んでるのかと詮索される事もなくなる。

これだから、シズちゃんは馬鹿だって言われるんだよ。(言うのは主に俺だけど)
池袋に来ても、何も言われない、何も飛んでこない。こんな安全な日に、何もせずに目的地に向かう為だけに池袋に来ているんだと信じ込んでるんだからね。

いや、別に何もしないけどさぁ、俺が池袋を壊滅させようと目論んでいる様な悪人だったら、この日に何かを仕組むと考えるのが自然だろう?
…あ、何かこの公式で行くとシズちゃんが正義のヒーローみたいだ。カッコ、笑。カッコ閉じ。なぁんてね。

あぁ、いけない、話がそれる。
つまり、だ。

一年に一度、この日だけは。俺は何の気構えもなく池袋を歩けるってことさ。
だから、愛用のナイフも万が一の為の備えで一つ持っているだけ。

え?もしもその辺のガラの悪い奴に襲われたらどうするのかって?

あぁ、それなら大丈夫。根拠のない自信ってわけじゃないよ。ナイフ一本で十分だって慢心している訳でもない。本当に、問題ないのさ。

なぜなら―――

「折原、臨也だよな?」
「確かに俺は折原臨也だけど。君達に呼び捨てされるような覚えはないなぁ。それに、俺は君達を知らない」

あぁ、話している最中に本当にそんな状態になってしまった。
だけど大丈夫。問題ない。見ててごらん?

「あんたが俺達の事を知らなかったとしても、だ。俺達はあんたの事をよぉく知ってるぜ?新宿の情報屋、折原臨也さんよぉ?」
「あんたに直接恨みはねぇが、あんたを痛めつけりゃぁ、良い小遣い稼ぎになるのさ」

男たちは俺に向かって武器を向ける。
何時もシズちゃんと命懸けの追いかけっこをしている俺からすれば、そんな棒切れ、怖くもなんともないんだけど。むしろ可愛らしくさえ見えてくるね。

ブン、と、大げさに一人が棒切れを振りかぶった。
うん、胸元ガラ空き。喧嘩慣れしてないねぇ…いや、今まで強い相手に当たった事がないのかな?

ステップを踏んで、軽々と男の懐に飛び込む…予定だった俺の足は、地面を踏みしめることなく宙に浮いた。
グイッ、と、首元を引っ張られる感覚。

――あぁ、来たのか。

「手前…何してやがる?」

低い怒声が上から降って来た。
俺はその声の主に、いつものように作った笑みを向けてやる。

「ん〜?ドタチンの家に行く最中に、見知らぬ男の人に絡まれてる…って言うのが正しいかな?」
「うるせえ、お前に聞いてんじゃねぇよ。後、その作った様な笑みをひっこめろ。胸糞わりぃ」

相変わらず俺を猫のように持ち上げながら、目の前にいる男達にガンをくれているシズちゃんに、一瞬、目の前の男たちは固まった。
しょうがないよねぇ。目の前にいるのは『あの』平和島静雄なんだから。
自分達がシズちゃんの餌食になるって、考えたんだろうね。一瞬だけ。

それから、一瞬でその考えを覆したんだろうね。なんたって、俺がいるんだから。
折原臨也と平和島静雄は犬猿の仲、これは間違いでも何でもない通説だ。
だから、俺に絡んでいた自分達がシズちゃんに何かされる事はないって、思ったんだろうね。

あぁ、これだから人間って云う生き物は面白い!
君達の目の前にいるのは、間違いなく危険人物だと言うのに!

そうそう、後、一応言っておくと、今日ほど俺に絡んじゃいけない日はないよ。

何故だかこの日だけは、シズちゃんは俺の味方なんだから。

……まぁ、今更遅いだろうけど。

「シズちゃん…今更だけど、いくらガラが悪いって言っても一応一般市民にあれはやり過ぎじゃないかなぁ?」
「うるせぇ、訳の分からねぇ事グダグダ並べて俺の怒りを増幅させるあいつらが悪い」

とっとと行くぞ。と、未だに俺を猫のように持ち上げながら、シズちゃんは歩き出す。
どうでもいいけどこの体制、結構苦しいんだよねぇ…

「降ろしてよ、苦しい」
「黙れ。降ろしてまた絡まれたら面倒だ。いっそ担いで行ってやろうか?」
「…コノママデイイデス」

ハァ、と短く溜息をつきながら、俺は、愚かにもシズちゃんの怒りを買って、標識で壁に張り付けにされた哀れな男達を目の端に捉えながら、ドタチンの家へと向かった。

◆ ◇ ◆


「ドッタチーン!」
「うわっ!?臨也、いきなり飛びつくんじゃない!」
「えー?別にいいじゃん」

ドタチンの家に着き、シズちゃんにようやく解放してもらえた俺は、出迎えに来てくれたドタチンに、勢い良く飛びついた。
一応窘める様にドタチンが言葉を掛けてくるけど、本気で嫌がってる訳じゃないのは声を聞けば良く分かる。
これだからドタチンラブ。優しいんだもんなぁ…。

こんな風に突然飛びついて、苦笑いしながらも嫌がらないのなんて、ドタチンくらいだよ。
正臣君にやったら物凄い勢いで引き剥がされるし、新羅にやったら「あぁ、ごめんよセルティ!僕は好き好んでこんな状態になってる訳じゃないんだ、むしろ俺としては君に飛び込んできてもらいt(ry」とか何とか、セルティに対する謝罪だか要求だかよく分からない事を叫び出すし。
シズちゃんにはやった事無いけど、やったら多分俺、即殺されると思うんだよね。

「イザイザに突撃ドーン☆ワゴンサンド!なんちって♪」

…あぁ、そうだ。もう一人いた。
ドタチンみたいに俺から飛びついたりはしないけど、むしろ俺が飛びつかれる側だけど。

「狩沢…」
「ヤッホーイザイザ♪今日も元気に天使だね!可愛いね!流石私の嫁だね!」

相変わらずなテンションで、正直良く分からない事を叫んでいる狩沢と、俺は一応…付き合って、いる。
付き合うって言ってもオフの日に俺の家に狩沢が遊びに来たり、新宿とか池袋(こっちは本当に極稀だ。)をぶらぶらしているくらいなんだけどね。

「狩沢さん、モチ米蒸してる最中にいきなり飛んで行かないでほしいっすよう。臨也さんが来て嬉しいのは分かるっすけど、火は見ててくれないと危ないっす!」

ドタチンに抱きついている俺、に抱きついている狩沢に向かって、奥から遊馬崎が声を掛けている。
そんな遊馬崎に、相変わらず俺に抱きついたまま、狩沢は唇を尖らせて反論していた。

「えー、だってゆまっちぃ。リアルドタイザだよ?これは眼球に焼きつけずしてどうするの?!ってかそこにゆまっちか渡草さんが抱きつけばワゴン組サンドで美味しいよね!まぁ、イザイザの可愛らしさに思わず私が抱きついちゃったんだけど。でもまぁ、これはこれでありかな。あ!シズちゃんか新羅さんが抱きついてくれれば来神サンドでさらに美味しいね!と、言う訳でシズちゃん、ちょっとイザイザ抱きしめてみてよ」

キラキラと目を輝かせて、最終的に話がそれてしまっている狩沢に、溜息を一つ。

「狩沢ってさぁ…時々怖いくらいに命知らずだよね」
「激しく同感するっす…」

俺の言葉に、遊馬崎も同じように溜息を零していた。

「おいお前ら!二人して火の前から離れるんじゃねぇ!俺一人で面倒見切れねぇぞ!」

奥から渡草さんの声が聞こえる。
あの人もドタチンの次位に苦労人だよね…
そう考えながら、俺に抱きついたままの狩沢に向かって声を掛ける。

「ほら、狩沢離れて。準備まだだったんだろ?」
「う゛〜…それじゃぁ…またあとでね、イザイザ」

名残惜しげに離れる狩沢に、ちょっと嬉しく思った…とか。絶対狩沢には言えないね。
言ったら爆発するよ。主に恥ずかしいとかそう云う意味で。

自分で言うのもなんだけど、俺は嫌われ者だ。
早く離れたいって思われる事はあっても、離れたくないなんて、思われた事無かったからね。
別に今の性格を直す心算(つもり)もないし、特に気にしてもいないんだけど、やっぱり、嫌われるよりは好かれたいって思うのは、仕方のない事だと思う。

今まで抱きついていたドタチンから離れながら、俺はそんな事をポツリと思った。

◆ ◇ ◆


「蒸しあがったっす!」
「搗くぞ」

遊馬崎がモチ米を蒸していた蒸籠を運んでくる。
それを臼の中に移しながら、京平は短く告げた。

「杵と水持ってきたよ〜」
「取敢えずはモチ米をつぶす所からだな」

狩沢が杵を数本担ぎ、渡草は大きなバケツに八分目ほど注いだ水を両手に提げてやってくる。

『手伝おう』

セルティがPDAを打ち込みながら、二人に近づいた。
そんなセルティを、新羅が止める。

「何言ってるんだいセルティ?!君は女の子なんだよ?そんな力仕事はその為にいると言っても問題ない様な静雄の仕事さ!適材適所、君の仕事は僕の隣にいてくれる事なんだから、ね?」

ほら、何つっ立てるのさ、さっさと運ぶの手伝ってきなよ、静雄。

そう言いながら、セルティに向かって満面の笑みを浮かべる新羅に、静雄は一瞬青筋を立てそうになったものの、大人しく狩沢達の方へと足を進めた。

「手伝う」
「えー?別に大丈夫だよぅ?シズちゃんには、この後もっと大事な役割りが待ってるからね!」

手を差し出しながら告げた静雄に、狩沢は笑う。
「ね?」と渡草へと話しを振れば、彼も同じように笑みながら、頷いた。

「あぁ、そこからそこまでだしな。運ぶのくらいは俺達でやるさ」

渡草にまでそう言われてしまえば、静雄は納得せざるを得ない。先程まで自分が立っていた辺りまで戻ってくると、京平が臼の前から静雄を呼んだ。

「おい静雄。ちょっと手伝ってくれないか」
「あぁ」

呼ばれるままに足を進めれば、京平は狩沢が持ってきた杵を一本、静雄へと手渡しながら告げる。

「じゃぁ、潰すぞ」

その言葉を合図に、今年の餅つきは始まりを迎えた。


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