DRRR*

□はっぴーはろうぃん!
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「イッザ兄―♪」

軽快なチャイムの音、ドアの外から聞こえる弾んだ声。

……どうしよう、凄く…出たくない。

「イザ兄ー?いるんでしょ?開けてよイザ兄ー」
「兄…開…(イザ兄、開けて)」

声はまだ聞こえている。
チャイムを押す間隔が早くなる。

「〜〜〜〜っあぁもう!」

耐えきれなくなって、ドアを開けた。

「お前ら煩い!近所迷惑だろ?!大体、どうやってここまで上がってきた」

開け放ちながら文句を言う俺を気にする様子も見せず、俺の困った妹達は、にっこりと笑みを浮かべながら、開口一番、こう告げた。

「「TRICK and TREAT!」」

……ちょっと待て、今接続詞おかしくなかったか?

◆ ◇ ◆



「そうか…今日ハロウィンだっけ?」

妹たちの格好と、告げられた台詞を聞きながら、臨也はぼんやりとした様子で呟いた。
そんな臨也の腕をとりながら、舞流が声を上げる。

「ねえイザ兄ぃ、お菓子は?御馳走は?」

ねぇねぇ、と軽く腕を引きながらじゃれつく様に訪ねている舞流に倣う様に、九瑠璃も臨也の腕をとった。

「…甘…欲…(お菓子頂戴?)」

両腕を妹達にとられ、ねぇねぇ、とねだる様な声を上げられては、流石の臨也も振り払えなかったらしい。
短く溜息をつきながら、「あげるから、手を離してよ」と呟いた。

「さっすがイザ兄!」
「好…(イザ兄…好き)

パンッと小気味良く手を叩いてはしゃぐ舞流と、大人しいながらも嬉しそうな九瑠璃の顔を見ながら、臨也は小さく笑う。

(こう云う所は、可愛いのになぁ)

そんな事を思いながら、臨也は二人を家へと上げた。

◆ ◇ ◆


「ちょっと待ってろ、今持ってくるから」

そう言って、イザ兄は私とクル姉の前に紅茶のカップを差し出した。
ほんのりと湯気の漂うカップの中の紅茶は普通の紅茶よりも紅い気がする。

「イザ兄、砂糖は?」

近くにシュガーポットがない事に気がついて尋ねれば「ああ、そうか」と軽い声を上げてイザ兄が戻ってきた。

「はい。入れても良いけど、入れ過ぎるなよ?せっかくの紅茶が台無しになる」
「はーい」

たしなめるように告げられた言葉に、私はきちんと返事を返す。
間延びした様な答え方だったからなのか、イザ兄はちょっと苦笑いを零していた。
多分、イザ兄は私が話を聞いてないとでも思ったんだろうけど、ちゃんと聞いてるからね。

それに、言われなくたって分かってるもん。

イザ兄の紅茶は、あんまり砂糖を入れなくても十分おいしいって事くらい、ね!

「…茶…不…(舞流…多分今日の紅茶、砂糖いらない)」

先に紅茶を飲んでいたクル姉が、ポツリと呟いた。

…あ。本当だ。砂糖いらないかも。

◆ ◇ ◆


紅茶を半分ほど飲み終えた頃、臨也がお菓子を持って戻ってきた。

クッキーやチョコレート、グミにキャンディー。
種類豊富なそれらに、妹たちは目を輝かせる。

「やったー!さすがイザ兄!」
「沢…嬉…(こんなにいっぱい…嬉しい)」

「ほら、これ食べて紅茶飲んだら帰れよ?」

嬉々とした様子でお菓子を頬張る妹達を見ながら、臨也は穏やかに笑っていた。

―――そう、数分前までは。

「「ごちそうさま!」」

出されたお菓子を好きなだけ食べて、食べきれなかった分を持っていた手提げに詰め込みながら、満足げに双子は笑う。
これで帰ってくれるだろう、と、臨也もホッとした様な笑みを浮かべていた。

しかし、忘れてはいけない。
彼女達が扉を開けて開口一番に告げた言葉を。

「TRICK and TREAT!」

つまり、お菓子も悪戯も。もっと言えば、お菓子くれても悪戯するぞ★

つまり、この双子も当然、最初から悪戯が目的なのである。

「ねえイザ兄。私とクル姉の仮装どう?」
「同…(お揃いなの)」

唐突な様でいて、流れ的には不自然ではない言葉を舞流が口にした。
その問いに、深く考えずに臨也は答える。

「あぁ…可愛いんじゃない?白猫と灰猫だなんて双子らしくていい」

そこまで告げて、「おや?」と、臨也は首を傾げた。

「ついにするなら灰猫より黒猫の方がいいんじゃないか…?」

そう言いきるが早いか、臨也の視界の隅でバチリと弾ける青白い光が見えた…気がした。

◆ ◇ ◆



「…ん…」

気付けば、ソファの上で眠っていた。

何時の間に眠ってしまったのだろうかなどと考えながら体を起こそうとして、気付く。

「……体が動かない」

体が、と云うよりも、正確には手と足が動かない。
何とか起き上がろうと体をよじっていたら、ソファから落ちた。

…良かった…誰もいなくて。

テーブルの上に見覚えのない紙切れがあるのを見つけて、文面を目で辿る。

「…っあいつら……!」

やっぱりこの状況はあいつらのせいか。

紙切れにはこう書いてあった。

【今日はハロウィンと云う事で、イザ兄の家に悪戯するついでにお菓子貰いに来たよ!
紅茶とお菓子御馳走さま。凄く美味しかったけど、ほら、やっぱり私達の目的は悪戯だから☆
と、云う訳でイザ兄には私達とお揃いの黒猫に仮装して貰いました。
白黒灰で良い感じにお揃いでしょ?
で、凄く可愛らしく仕上がったので、××さんに写メって置いたから!楽しんでね!
それじゃぁイザ兄、ハッピーハロウィン♪】

……何で写メるんだよ。せめてお前たちだけで楽しんでくれよ。
俺を仮装させた時点で十分悪戯だろ?

…こう云う所はほんっと、苦手だよ。まあ、俺に似たと言えばそうなんだけどさぁ…

俺は、インターフォンから響くチャイムを聞きながら、この状況をどう打破しようかと頭を悩ませていた。



HAPPY HALLOWEEN!


……ホント、サイテーなハロウィンだよ…


End.


(そ…そうだナイフ!)
ガサゴソ…
(あいつら…コートからナイフ全部抜いていきやがった…!!)
ドンドンドン!
(うわ、玄関まで来た!てか、どうやってエントランス抜けたんだよ?!)
ガチャガチャガチャ
(どどどどうしよう…!こんな姿見られたくないのに…!!)



(今頃イザ兄慌ててるだろうねー)
(肯…(そうだね))
(それにしても、ネコミミなイザ兄可愛かったなー♪)
(肯…尾…(うん…やっぱり尻尾も持ってこれば良かったね…))
(ほんとに!惜しいことしたなぁ!)

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