DRRR*

□ゲームで臨也君があまりにも(略)
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ぱたん。

蓋を閉じて、鍵を掛けて。
苦しくない様に空気が通る様にだけはして。

「バイバイ、狩沢」

もう一度だけ、呟いた。

携帯を取り出して、通話履歴から駆け慣れた番号を選択する。
数コールの後、相手先と繋がった事を確認して、口を開いた。

「あ、運び屋かい?悪いけど仕事を頼むよ。」

◆ ◇ ◆


臨也に頼まれた仕事は、至極簡単な依頼だった。
とある場所に行って、其処に置かれているスーツケースをとある場所へと運んでほしい、と云う物。
取りに行く場所と、運ぶ場所の詳細は、後からメールで送付されるらしい。

通話口を軽く指で叩いて承諾の意を伝えると、臨也は[それから]と、一つ注釈を入れて来た。

[君の運び方が雑なんて事はないだろうけど、念のため。丁寧に運んでおくれよ?それは……大切なものが入っているから、ね]

臨也の声が、いつもよりも随分と優しくて、どこか切なげに響いた事に、どうしてその時私は気付けなかったのだろう。

気付いていれば、未来は少しくらい、変わっていたかもしれないのに。


指定された場所へシューターを走らせる。
人気のない廃ビルの中に、艶のある黒のスーツケースが置かれていた。

(まさか…中に死体でも入ってないだろうな…?)

強ち臨也ならやりかねなさそうな事を考えながら、スーツケースを持ち上げる。
ズシリと重たいそれを、出来るだけ丁寧に影でくるんで、私は再びシューターを走らせた。

指定された受け渡し場所へと向かう。

其処には、見覚えのあるワゴンが止まっていた。

『門田じゃないか。君が、受取人なのか?』
「よぉ、セルティ。…そうだな、臨也からの物なら、俺宛てだ」

受取人が門田だと云う事を確認して、私はスーツケースを彼に言われるままにワゴンの後部座席へと乗せた。

「サンキューな」
『いや、これも仕事だからな。…ところで、差し支えなければ中身を聞いても良いか?』

私の問いに、門田は苦い笑みを浮かべると、「実はな」と、ゆっくり口を開いた。

「俺も臨也にこのスーツケースの鍵を預かっただけで、中身は知らねえんだ」

[君達にとって、大切な物が入っている]とだけ言われたらしい。何とも臨也らしいと門田は笑っていたが、そうなると俄然中身が気になってしまうのはなぜだろうか。

「ついたらすぐに開けるようにって言われてるんだ、何だったら中身見て行くか?」
『いいのか?』
「あぁ、構やしないだろう。人に見せるな、とは言われてないしな」

そう、気さくな笑みを浮かべながら、門田はスーツケースへ鍵を差し込んだ。


――カチリ。

解錠される音がする。
ゆっくりと、蓋が持ち上げられ、中身が徐々に見えてくる―――


◆ ◇ ◆



ガタガタと、揺れる音に意識がぼんやりと浮上する。
なんだかすごく狭くて、薄暗いなぁ、なんて、まだぼんやりとした意識の中で思っていると、突然視界が明るくなった。

そして、私の視界には、驚いた様なドタチンの顔が広がっている。

「狩沢?!」
『な、何で狩沢が?!…臨也の奴…よりにもよって自分の恋人をスーツケース詰めにするとかどう云う頭をしているんだ?!許せない…ふざけている!』


あ、セルティさんもいた。

驚いた様に声をあげたりPDAを打ち込んだりしている二人を見ながら、私はゆっくりと自分に何が起きたのかを思い出していた。
そうだ!

「っ!イザイザは?!」

スーツケースから飛び出して、私は傍にいたドタチンに掴みかかる。
イザイザは?イザイザはどこに居るの?!

「落ち着け狩沢。此処は渡草のワゴンだ。ここには臨也は居ない」

ドタチンの言葉に、愕然とした。

意識を失う寸前に見たイザイザの表情が頭から離れない。

なんだかよく分からないけど、凄く気持ちが焦燥する。
今すぐイザイザを捕まえないと、もう二度とイザイザに会えない様な、そんな気がする。

「渡草さん!今すぐ新宿まで車出して!」
「落ち着け狩沢、取敢えず何があったのか説明してくれ」
「説明なんて行きながらでも出来るよ!今すぐ行かなきゃ、凄く後悔する様な気がするの!」

ドタチンの制止も振り切って、私は渡草さんに頼みこんだ。

「わかった。シートベルト締めてきちんと座っとけよ!」

渡草さんは快くそう一言告げると、アクセルを吹かす。
体がシートに押しつけられるような感覚を受けながら、私は祈るような気持ちで新宿へと向かった。

◆ ◇ ◆


「こんなものかな」

狩沢をセルティに預けてから、数十分が経とうとしている。

俺は、部屋の中の資料を粗方片付けていた。
必要最低限の物だけを、今は持って行けばいい。
そのほかの物は、後から運べばいい。手段なんて、いくらでもあるのだから。

新宿にも、池袋にも、居られない様な事になってしまった。
今回は、まわした敵が悪い。
完全に俺のミスだ。

ここを離れる為には、出来るだけ身軽にならなければいけない。

波江さんには他の仕事をあてがったし、俺の事を聞かれても、もう随分と前に解雇されたから分からない、と答えれば良いと言ってある。
彼女はポーカーフェイスが得意だから、多少の演技はお手の物だろう。
…ただし、弟君が絡まない時に限るけどね。

問題は、狩沢だった。
狩沢は…一応、俺の恋人、で。だけど一般人だ。
奴らがどれくらい俺の事を調べているかは知らないけど、もしかしたら狩沢の事くらい知っているかもしれない。
その場合、狩沢が危ない。
下手に俺の事情を離せば、更に危ない目に合うだろう。彼女は顔芸が苦手だから。

だから、いっそ、嫌われてしまおうと思った。
家に呼んで、油断させておいて薬を盛って、スーツケースの中に無理やり押し込んで何処かへ送ってしまう。
我ながら最低だとは思うけど、嫌われたいならこれくらいでちょうど良いのかもしれない。

全てが終わって、もしもまた新宿に、池袋に戻る事があったなら、俺はきっと狩沢だけでなく、かつての級友からも、知り合いからも軽蔑されるんだろう。
関わり合いになりたくないと避けられて、「二度と顔も見たくない」と罵られるのだろうか。

…まぁ、今も大して変わらないけれどね。

許してほしいとは言わない。
酷い事をしているとは分かってる。

だから、そうだな。

俺なんて、忘れてくれればいいんだよ。

願わくは、
(近い未来、俺のいない世界で、君が笑っていますように)



パタン…カチャン。

鍵を掛けて、俺はオフィスを後にした。

End.



「傍にいて」から続けてみた。
今回は臨也君の弁解とか色々(笑)
もう一回続いたりなんかしたら手直ししてサイトに置こうと思っています(笑)

勿論この後、新宿にたどり着いた狩沢さんは崩れ落ちる訳ですが(え)
しかしそこでへこたれる絵理華様ではありません!
なんたって池袋には高性能イザイザ探知機がいる訳ですからね!(マテ)
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