DRRR*

□恐怖体験?
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◎唐突に始まります。
◎日記用の小ネタだったので結構適当。



頼りなく揺れる橙の灯火を囲んで、四人の男が座っている。

「…その後、彼の行方を知る者はいないらしいよ」

四人のうち一人、眼鏡をかけていた男はそう話を締めくくると、手元の灯火を一つ吹き消した。
どうやら、百物語をしているらしい。
バンダナを巻いた男が、「次は俺だな」と、徐に口を開いた。

「これは、職場の先輩に聞いた話だ…」

そう語りだした話しに、他のメンバーは引き込まれて行く。
話しは佳境、すっかり彼の話に呑まれたメンバーは、ごくりと息をのんだ。

その時。

「新羅ー」
不意に部屋に差し込む光と、飛び込む声。
場に不釣り合いなそれらに、話しをしていた男以外が大きく肩を跳ねさせる。

「………、祈花」

逆光に立つ人物を注視していた眼鏡の男は、それが誰なのかを認識して、そこでようやく詰めていた息を吐き出した。

「吃驚させないでよ…」
「え?ひょっとして私、タイミング最悪?」

きょとんと目を丸くしながら尋ねた彼女に、四人は苦く笑った。

「「「「まぁね」」」」

◆ ◇ ◆


「で、何しに来たのさ」
「仕事が珍しく3連休貰えたから、書庫貸してもらおうと思って。新羅たちは何やってたの?」
「百物語だよ」

「最近暑くなってきたからね」と笑う新羅に、「成程」と頷いて、祈花は床にしゃがみ込んだ。

「私も、それほど怖い話じゃないけど、一つあるよ。話していい?」

その言葉に、四人は頷く。
それを確認して、ゆっくりと祈花は口を開いた。

「――これは、つい、昨日の話。」

◆ ◇ ◆


「おはようございます、血液センターです。皆さまの献血へのご協力をよろしくお願いしまーす!」

いつもと変わらない、池袋での採血バス勤務。

血液センターと背中にプリントが施されたTシャツを着て、祈花は道行く人へ声をかけていた。

「あら、献血?」
「あ、紅林様おはようございます。西口公園でやっているので、良かったらお願いしますね♪」

ポケットティシューを配りながら笑顔を見せる彼女に、紅林と呼ばれた女性は朗らかに笑む。

「泉ちゃんがいるなら、行こうかしら。受付は何時まで?」
「有難うございます!16時半までですよ」
「それじゃぁ、買った品物を冷蔵庫にしまってから、また行かせて貰おうかしら」
「お待ちしてますね。あ、引き止めてしまってすみませんでした」
「いいのよ。泉ちゃんと話すのは楽しいもの」

にこやかに会話を交わして、二人は別れる。
再び通行人に向けて声をかけ始めた祈花は、ふと、受付に一人の男性が立っている事に気付いた。

受付には3,4名の他の献血者がいる。
対応に追われる受付職員は気付いていないらしい。

祈花は受付に戻ると、ぼんやりと立つ男性に声を掛けた。

「おはようございます、大塚様。献血ですか?」

出来る限りの穏やかな声を出して、祈花は男の背後から呼びかける。
ゆっくりと振り返った男は、胸ポケットから折りたたみ式の皮財布を取り出すと、献血カードを探す仕種を始めた。

「大塚様」

男のそのしぐさをやんわりと制止しながら、祈花は告げる。

「ご家族から、献血の後に体調が悪くなる事があるから出来るだけ控えさせてほしい、と連絡を頂いてます。お気持ちは嬉しいんですが、大塚様に何かあってはいけないので、そのお気持ちだけ頂きますね?」
「…そうですか」

ポツリと、そこでようやく男は口を開いた。

「家族から、そんな連絡が…」
「えぇ、奥様心配そうでしたよ?それに、あまり顔色もよろしくないですし、今日はやめておいた方がいいと思います」

穏やかに微笑む祈花に、男は「分かりました」と財布を元の位置にしまう。

「それじゃぁ、今日はやめて置きます。…有難う、泉さん」
「いいえ。大塚様の体調が第一ですから♪あ、そうだ。せっかく来ていただいたので、これ、持って帰ってください」

そう言って、祈花は先程まで通行人に配っていたポケットティシューとドリンクの紙パックを彼に手渡した。

それを受け取って、今度こそ男は帰って行く。

「…さようなら」

その後ろ姿に向けて、祈花はそう呟いた。

 * * 


今まで、他の献血者の相手をしていた受付職員が不思議そうに呟く。

「泉さん、さっきの人、どうして帰しちゃったんだい?」
「…そうですね、多分見た方が早いと思います。今の方のデータ、開いていただけますか?お名前は大塚 和実様。生年月日は―――」

首を傾げながらキーボードを叩き、データを開いた職員は、驚愕の表情で祈花を見た。

『H25.×月。ご家族より本人死亡の連絡あり』

開かれた画面には、そんな文字が羅列してあったのだから、無理もない。

「そんなに献血、したかったんですかね?大塚様」

寂しげな表情を浮かべて首を傾げた祈花に、他の職員は同意することも否定する事も出来ず。
結局、採血を終えた献血者がバスから降りてくるまで、その場は妙な沈黙に包まれたのであった。

***

「――と、まぁ、そんな感じの事があったんだよね。怖くなかったでしょ?」
「…いや、十分怖いよ」

話し終えた祈花の言葉に、新羅はゆっくりと首を振った。
「どこが?」と目を丸くしている祈花におそらく思う事は皆同じだろう。

何が怖い、何処が怖いって、そりゃ…

「君が、だよ。祈花…」

いくら色視と云う特殊能力があるとはいえ、動じもせず、にこやかに、いつも通りの対応でやんわりと受付を断ってしまえる、彼女自身に違いない。

新羅の言葉に、祈花は分からないと云う風に首を傾げていた。

End.


久しぶりのアップが祈花ちゃんシリーズだなんて。
しかも祈花ちゃんしか話してないに等しい。
後かろうじで新羅。
後の三人完全に空気とかどうした自分(苦笑)

ちなみに半実話。
幽霊とかじゃないけどメモ欄にそんなメモが入った方がいらっしゃったら吃驚するよね、ってお話でした。

2013/05/22*

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