ShoutDREAM

□邂逅
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雲も少なく、晴天となった本日。ふと思い出したように、俺は携帯を開いた。仕事を休むことを決めてからずいぶんと日付が経過している。その間、この携帯はまったく起動されていない。仕事用の携帯で、連絡が来て返信するのが面倒だったからというのも理由だが、なによりもこれで自分が本当に連絡したい人に連絡する機会が全然なかったのだ。そのためにこの携帯は長い間電源を切られたまま眠っていた。だから、そう、気まぐれで俺は携帯の電源を入れた。少ししてから鳴る着信音と共に、ずらっと数十件のメールが届く(電源が切ってあるので、着信の履歴や留守電は機能しない)開かずに名前だけを見ながら進めていくと、ふと、懐かしい名前が目に入った。思わず笑みがこぼれる。そういえば、彼女には仕事用のメアドを教えてしまっていたのだった、と思いながらもそのメールを開いた。

私が彼と出会ったのは、もう何年も前のこと。暑さが和らぎ、心地よい風が吹く日のことだった。私はその日、珍しく家族と喧嘩し、家を飛び出した。あの時はまだ日は高く、明るい時間帯だったから、私はなにも心配せず、電車に乗り、遠くに逃げ出した。単純に、遠くに逃げれば家族は追ってこないと思い込んでいたからなんだけど…。後で知ったことだけど、5駅分離れた場所にいたらしい。今思えばバカなことをしたなとは思っている。帰り方もわからず、さまよっていたときに、彼と出会った。


From. (   )
To. (   )
お久しぶりです。元気ですか?
このメールが届いているかはわかりませんが、私は元気です。
先月、私のマネージャーが結婚式をしました。
ウエディングドレスって、やっぱきれいですよね。
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ずいぶんと懐かしい人だ。彼女と会ったのは随分前で、それが最初で最後だった。(本当にそうだっけ?)彼女は当時小学生高学年くらいの姿で、涙目になりながらもあたりを見回していた。最初はなにかと思っていたが、ちょっとした好奇心で彼女に話しかけた。それが始まり。近くの店で飲み物を買い、ベンチに座りながら俺は彼女の話を聞いた。どうやら家出らしい、という結論に至ったのは、彼女が家族の話になるとぷすーっと怒った顔をしたからだ。なだめながら話を聞くと、きょうだい喧嘩をして飛び出したのはいいが、帰れなくなったということだ。家からの最寄り駅を聞くと、ここから一番近い駅からは5つほど離れた場所で、すぐにでも帰れる距離だった。送るといっても、彼女は嫌だと言って動こうとはしなかった。その頑固さに思わず笑って、ならちょっと遊ぶか、といって手を引いた。

今思うと、彼は少し…いやかなり不思議な人だったと思う。どこが?って聞かれるとちょっとわからないんだけど…。それでもやっぱりどこか不思議だった。年齢差があったからってのがあっても、私を軽々片手で持ち上げて肩に乗せたり、普通しっているようなことでも知らなかったり。とにかく、小学生だった私よりも非常識な面があったのは事実。でもその非常識の部分はよく見てないと気が付かないことだったし、最後には気にならなかったんだけど。彼は、家に帰りたがらない私を連れて、動物園に行った。どうしてだったのかはわからない。けど、そういった施設に行くことのなかった私にとってはとても新鮮だったかな。平日だったから思ったよりも混んでいなくて、コースなんて考えずにそりゃもうめちゃくちゃに回った。全部?見れなかったよ。一番覚えているのはウサギがいた場所かな。ふれあい場?かなんかで触れたんだよね。私、追っかけまわして逃げられまくったのに、彼はそこにしゃがんでいるだけで足元にウサギが集まるの。思わず飛び込んだよね。怪我はしなかったけど、彼に抱えられたまま倒れこんだかな。本当に申し訳なかったって今では思うよ。

動物をさも珍しそうに見て走りだす彼女を、俺は後ろから追っていく形で、俺は彼女と動物園を楽しんでいた。いろいろな場所を巡ればいいのに、行きたいと思ったところに向かってただ一直線に進んでいく彼女はどこか面白くて、俺はただそれを追った。後々のメールで、自分はそんなキャラじゃない!って言っていたが、あれも一種の本当の性格だったんだろう。時間にしてどのくらいの間彼女といたのかは覚えていない。けれど、彼女といた時間はとても短く感じた。出会ったときよりも日が落ち、少し肌寒くなった頃には、駅のそばまで帰ってきていた。嫌だ、とでも言いたげな表情を浮かべる少女をなだめて見送った。本当は家まで送ろうかと言ったのだが、大丈夫だと言って聞かなかったのだ。帰り際に俺が携帯のメアドが書いてあった名刺を渡した。今時小学生が携帯を持つのかは疑問だったけど、気分で渡してしまった。


あれから何度か彼に会おうと思って駅に行った。でも、1度もあえなかった。メールを送っても返って来ちゃうんだよね。送れたのはその出会った日のメールだけ。ああ、そう、一緒に行った動物園も見つけられなかったんだよ。不思議体験だよねぇ。ホラーじゃないし夢でもないの。なんでそんな核心しているか?そんなの分からないよ。でもね、つい昨日、メールが送れたの。返事は返ってこなかったけどね。元気だったらいいなぁって思って送っただけだし。ああそう、その日がね、ちょうど彼と出会った日と同じ日付だったんだ。


今更メールが返信できるとは思っていない。昔のメールだって、送信できずに未だ残っているのだから。おそらく、あの日にしか送れなかったし出会えなかったのだろう。・・・あれ、そういえば


「それで?なんで私に言ったの?ふさわしいのが他にいるでしょうが」
「え?だって帰った時にめっちゃ怒られたんだよ?知らない人と一緒だったなんて言ったらなんて言われるか・・・」
「あっそう・・・(まだ時効じゃないんだ)。で?その人の名前は?」



「・・・私/俺、彼/彼女の名前しらないや」
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