勇者文章
□特別な日
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6月10日。
それは、一年に一度の特別な日。
幼い頃からずっとお互いにお互いを祝いあった日。
ここ何年かは一緒に祝えなかったけど、今年は…。
「え?」
「だから10日は、勇者部の連中がオレの誕生日を祝ってくれるんだ」
鋼野は上機嫌だ。
槍崎の落胆をわかっているのか、いないのか。
「ちょっと待て。おまえこの間わしに、今年の誕生日は新作ゲームが欲しいとかいっとったよな。あれはプレゼントの催促じゃなかったのか」
「催促だけど」
しれっと言う鋼野に、槍崎は怒りを覚える。
「プレゼントだけ要求しておいて、なんじゃそれは。わしはてっきり前みたいに…」
「昔と今は違うの。いつまでも二人でさみしく誕生会なんてしてらんないの。今のオレには慕ってくれる生徒がいるしな」
「そんな…」
「あ、でもプレゼントは待ってるぜ!じゃあな」
勝手に言いおいて行こうとする鋼野の後姿が憎らしい。
昔からこういう奴だとわかっている。
いちいち気にする方が疲れるということも。
それでも、その日は本当に大切な日で。
何の運命のいたずらか、自分と同じ誕生日。
そんなやつが、自分にとって誰より大切な人で。
でも、そう思っているのは自分だけで、彼にとって自分はそれほど大切な存在じゃないのかもしれない。
そんな不安が、いつも槍崎の中にはあった。
それでも…。
「槍崎!」
遠ざかる鋼野の背を、ぼーっと見ていた槍崎に鋼野の声が飛んだ。
キラリと光るものが、弧を描いて槍崎の方に投げられた。
反射的にそれを手にとる。
見るとそれは、鍵だった。
「ガキは早く家に帰さなきゃだからな。たぶん9時過ぎには帰る」
鋼野は振り返らなかったものの、手を振って廊下を歩いていった。
槍崎の手の中には、小さな鍵が大きな存在感を持って残った。