家宝

□コナンパロ黄黒
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冷静になって考えれば、犯罪者がアイドル並みにもてはやされるのはおかしい。高校生が探偵をやって、事件現場に口出しできるのもおかしい。相当平和ボケしているんだろう。
そう、黒子は考えている
「いいじゃない、テツ君は事件を解決して一般市民の役に立っているのよ?」
「ボクなんかお役御免になるのが一番いい世の中ですよ」
そんなことになったら、私の潤いはどうなのよ!って言われても黒子は困る。豊満なバストを押し付けられて、周りの視線が痛い。押し付けられている本人は無表情で、丁寧に離れてほしいとお願いした。
 犯罪者がアイドルで、高校生が探偵を名乗っても許されるへんてこな世の中。そのへんてこな世の中を平和にする手伝いを黒子はしている。職業・高校生(自称探偵)、影が薄い事を除けばどこにでもいる地味な少年、黒子テツヤ。
高校生探偵としてそこそこ有名だ、注意していないと見失ってしまうという事でも知られている。
「で、今日は直接対決なのね!」
先ほどから瞳を輝かせ、新聞を握りしめている美少女は桃井さつき。同じ高校へ通う友人だ、抱きついたり側にいたがったりして積極的にアピールしている。でも、その好意はあまり黒子へ伝わっていない。桃井が黒子に惚れたきっかけは、当たり付きのアイスキャンディの棒をあげたことというロマンティックのかけらもない事だ。
「ただアドバイスをしに行くだけです、警察も困り果てているらしいですね」
と、呟いてコピー紙を見つめる。今朝、懇意にしている警察関係者からファックスで送られてきたものだ。差出人は世を騒がせている怪盗KID、美形で特に若い女性に大人気だ。
毎回満月を背負い、漆黒の空より舞い降りる謎の青年。白いマントとタキシードというふざけた格好をしている。
狙っているのはいつも宝石だ、しかも大きなものばかり。律儀に予告状をだし、逮捕に燃える警察をあざ笑うかのように華麗な手口で盗みだす。数日後、宝石は持ち主に送り返すという理解できない行動をしている。
その行動に及ぶ理由に興味はあるが、怪盗本人はどうでもいい探偵。今回、贔屓の推理小説家の新刊発売日だというのに協力を決めたのはその好奇心からだ。
「応援しているからね」
「ありがとうございます、危ないので現場には近づかないでくださいね」
と、桃井に紳士的に接して高校を後にする。その言葉に少女は今日も胸をと決めたせた。
風になびくさらりとした金髪、しなやかな四肢を包む純白の衣装。モノクロムの奥の瞳は獲物が待つビルを見ていた。
「今夜は気をつけろよ、あの高校生探偵が警備に参加しているんだからな」
「探偵って言っても高校生、警察関係者と知り合いってだけの青少年っスよ?心配しすぎだって」
と、会話する男が二人。白い衣装の少年とスーツを着こなした短髪の青年だ。白い衣装の方は、マスコミでは怪盗KIDと呼ばれている。本名は黄瀬涼太、イケメンでファンクラブまである。
余裕の発言に、スーツの青年は遠慮なく肩パンをかました。
「テメーも高校生だろうが、ちったぁ用心しろ。そのうち足元すくわれるぞ」
と、遠慮がない。彼は笠松。黄瀬の協力者だ。調子のいい黄瀬を叱りつつ、フォローに回っている。
黄瀬が怪盗をしている理由、それは父の復讐のため。彼の父もまた怪盗であった、非合法な方法で奪われた宝石を持ち主に返していた。ある時、悪党から宝石を取り戻そうとして「何か見てはいけないもの」を見てしまったらしい。以来、狙われ命を落とした。
黄瀬は決めた。父の敵を討つ、と。父は息子に被害が及ぶのを恐れ悪党の名前を残さなかった、それを知るために少年は父と同じ名と衣装で漆黒の闇夜に表すことにした。
「今夜も楽勝っス」
 と、答えた黄瀬に笠松は頭を抱える。協力者の不安を、心配しすぎと片付けて今夜も怪盗は舞い降りた。

 声を変え、姿を変え、今夜も楽勝のはずだった。だが、黒子は怪盗をうまく追いつめて包囲してしまう。協力者の不安は的中した、なんとか目標の宝石――ハーマキー・ダイアモンドは手に入れた。別名をドリーム・クリスタル、枕元に置いて寝ると夢の中でヒントをくれるといわれている石だ。ダイアモンドといっても、正体は透明度の高い水晶である。
 追いつめられ、退路もない黄瀬は宝石でも何でもいいから退路を教えてほしい。焦っても、状態は良くならず不利になるばかりだ。
「さあ、今夜こそは手錠をかけてやるぜ」
意気込む馴染みの刑事、火神を恐ろしく感じたのは初めてだ。その後ろにいる黒子はポーカーフェイス、喜びもしないところが憎たらしい。
「焦りは禁物です、まず宝石の確保を急いでください」
「わかってるよ」
 と、言い合っているが隙はない。今夜こそは年貢の納め時だ、と覚悟した瞬間だ。
 天窓を突き破る音、何かの鉄の塊のようなものだ。それには皆が驚いて後ずさる。数秒後に投げ込まれた細い筒状のものは煙幕を発して視界を白で埋め尽くした。
「KID、ずらかれっ!」
 天窓から降りてきたロープと共に声も降ってくる。笠松が間一髪で間に合ったようだ、不意打ちで煙幕を食らった警官と探偵は反応が遅れた。天からの救いを掴み、逃亡に成功する怪盗。
 それを探偵は睨み付けた。射抜く空色、それはブルートパーズそのものの輝きだ。強い輝きに目を奪われた、惹きつけられた、その瞳が欲しいとさえ思った。純白のタキシード姿なら、キザなセリフを言っても様になると信じて叫ぶ。
「名探偵、探偵と怪盗は対立しあう運命です。またお会いしましょう!あなたは闇夜に輝く月より美しい」
 昔のテレビドラマで聞いたセリフを投げかけて黄瀬はまんまと逃げ切ったのだ。

 翌日、黒子の機嫌は悪かった。追いつめたと思った敵に逃げられ、男に口説かれ、うれしくもない。それならば桃井に抱きつかれた方がずっといい。登校した彼を桃井は励まし、次は逃がさないと誓ったのである。
 放課後になると、苛立っていた感情も少しは落ち着いてきた。帰って小説を読もうとしたら、静まったはずの感情が再加熱した。

 黒子宛に届いたハーマキー・ダイアモンドと、バラ。バラの花束に埋もれている特大のクリスタル。これではバラのついでに宝石を贈ったと見える。
『宝石はお返しします。次の満月に会いましょう、名探偵』
 と、デフォルメした似顔絵入りメッセージカード。送り届けた宅配便の業者に罪はない、引きつりそうな頬をなんと隠してサインを書いた。
「もしよろしければ、携帯番号とメールアドレス、好みのタイプもお願いします」
 帽子を目深にかぶった業者の言葉に顔をあげた時には遅い、若く幼さが残る顔立ちに染めたにしちゃあ綺麗すぎる金髪の少年がいた。先ほどまでは黒髪で真面目そうな好青年だった。

 こうして、探偵の受難は始まった。

 終
 

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