コルダ
□声を枯らして愛を叫ぼう
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―――さようなら。世界で一番、愛した人…
―――もう、いいんだよ。僕はもう大丈夫だから…
―――もう振り向かないで、歩き出して。
【声を枯らして愛を叫ぼう】
もう何度季節が巡っただろう。
君に出会ってからもう7年。
初めて会った瞬間、君に一目ぼれして、馬鹿みたいに君のいる学校まで転校して、追いかけて…
告白したのは3年の秋。最後の文化祭でダンスを申し込んだあとに。
「日野さん…もう知ってると思うけど、本当に君が好きなんだ……
安っぽい言葉だけど…
君の隣の場所を、僕にくれませんか…?」
何時もの王子キャラは何処へやら、初めての告白に緊張して汗も凄い。笑顔なんてうまく作れなくて…とてもじゃないけどカッコいい告白なんかじゃ無かった。
でも…
「…はい。」
“隣と言わず、全部あげるよ?”
そう無邪気に笑いながら言った君は、今までで一番綺麗だと思った。
それから、もう僕たちも社会人になった。
僕は結局おじいさんの病院を継いで医者になった。
香穂さんも会社で受付嬢をしている。
それぞれの世界で、それぞれの生活を始めた僕たち。
ただ、そんな変化の中で、僕はだんだん香穂さんが僕から離れていくような気がしてたまらなかった。
しかも医者になりたての頃は身内の病院だからと上からは警戒され、同期からはやっかみを受けて、そんな環境にいながらも僕も香穂さんも忙しくてなかなか会えない日が続いた。
そして、かれこれ二週間近く香穂さんに会わない日が続いて、メールすらなかなかする時間無くて、それでも僕は香穂さんだけの事しかなかった。
どんなに忙しくても香穂さんの事が一番に頭にあった。
…なのに、
「今日は誘ってくれてありがとね、土浦くん。」
「いや、俺も日野の演奏久々に聞けて良かった。」
「はは、なのにあんな御粗末なので申し訳ない…」
「そんなに悪く無かったけどな…まぁ、忙しくて練習できなかったんだろ?次頑張れ!」
夜に久々に8時前に仕事が上がって、今日は香穂さんに連絡して会いに行きたいと考えていた矢先の光景だった。
別に浮気だとかは思わなかった。ただ、僕と会えないのに、僕以外の男といるのに……
とても楽しそうに笑う君を見て頭に血が上った。
…プルルル、プルルル、プルル…
『あ、葵くん!もう仕事終わったの?』
「うん。だから、今から家に来ない?」
『嬉しいけど…大丈夫?疲れてるなら遠慮するよ?』
「大丈夫。だから来て。」
そして、彼女が家についた。
僕は何も喋らなかったから彼女は気を使ったのかいろいろと話をして…
「今日土浦君に誘ってもらって小さなパーティーに行ってきたの!そこで久々に人前でヴァイオリン弾いたんだ!」
「でね、土浦君もピアノ弾いたんだけど、やっぱり凄くてさ〜!」
出てくる名前が土浦、土浦、土浦…
「…めてよ、」
「?葵君?どうしたの?具合悪いの?」
そのまま彼女の腕を掴んで床に無理矢理倒して叫んだ。
「僕と一緒にいるのに!!他の男の話ばっかりするなよ!!」
呆然と、状況がまるで理解できていない彼女に無性に苛々して、彼女の横の床にガラスコップを叩き割った。
部屋にはガラスの割れる音がけたたましく響いた。
「……あ…ご、ごめんね。あおいくん…ごめんね…」
肩を震わせながら、何とか無理矢理口角を上げて、謝りながら「怪我しちゃいけないからね…」と、僕の割った破片を集める彼女を、僕はただ呆然と見ていた。