黒子
□どうせなら堕ちる所まで
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人生で18回目のクリスマスイブの夜。
「黒子っち。大好きだよ。」
「知ってます。だから言ってるんです。」
「こんなこと、今更だよ。」
「今更ですね。でも、きっかけにはなりました。これ以上道理から外れてまで苦しい道を行かなくていいんですから。」
「…黒子っちの嘘つき…。」
現実には知らない方がいい事というのがあって、それは人によってさまざまだったりするのだけれど、オレたちが知ってしまったこの事実は二人にとって知らない方が幸せだった事実だと言いたい。
…でも、黒子っちは知ってよかったって言ってた。
知らなかったら、一緒にこのまま居れたのに、って言っても「こんな日が来るのは必然でした。」っていつもの無表情で言うんだ。酷いよね。本当に。
―――大好きでした。たとえ性別が一緒でも、関係ない程好きでした。
初めて会った中2の時、きっとあの時からオレは黒子っちに惹かれていて、必死に必死に黒子っちをこっちに向かせた。
優しい優しい黒子っちがオレの受け入れてくれた高校1年の冬。ウィンターカップ真っ只中だったけど、オレは黒子っちの特別になりたいって、黒子っちの隣にいたいって言ったら黒子っちはうなずいてくれた。
『君の諦めの悪さは予想外でした。』
そう、優しく笑う君を抱きしめたのは人生で16回目のクリスマスイブの夜。
幸せだった。
男同士とか、世の中に公言できないとか、隠さないといけないとか、高校が違うからなかなか会えないとか、そんな問題はささいな事だと、ただ黒子っちがオレの腕の中にいる幸せに比べたらそんなもの乗り越えれるって思ってた。
これから二人でずっと一緒にいられると思ってた。
『オレの告白を受け入れたからには、絶対に離さないっスよ?黒子っち。』
『いいですよ。もう普通に生きるのは諦めましたから。これからの時間は黄瀬君にあげます。』
抱きしめる腕の力を強めたら、「苦しいです」って言いながらオレの背中に手を回してくれた。
温かくも冷たくもない黒子っちの腕の、それでもその抱きしめられている感触を、オレは二度と手放せないって思った。
幸せだった。
たまに会う二人の時間は、誰にも邪魔されずに…中学の頃は回りの邪魔があったけど、それもなしに二人でゆっくりと過ごせる時間が大好きだった。
黒子っちが本を読んでる横でオレは雑誌を読んでて、たまにふとした瞬間に黒子っちに視線を向けえ目が合っただけで幸せで、思わず抱きしめた。
その後本が何処まで読んだか分からなくなったって拗ねた黒子っちも可愛くて、ああ、自分はもうどうしようも無いほどに黒子っちに溺れてるって思った。
幸せだった。
人生で17回目のクリスマスイブの夜。ずっとキスで止まってた二人の関係が進んだ。
道徳的な罪悪感に戸惑う黒子っちも、ずっとずっと側で待ち続けたオレももう限界だった。たまに触れ合う時のように、そっと黒子っちの身体を愛撫して、やっと許されたのは恋人になって1年後のことだった。
ここまで来るのにあまりに長くてきつかったけど、その分黒子っちと一つになったときの嬉しさはどうしようも無い程だった。
『黒子っちってあったかいね。』
『黄瀬君はむしろ熱いくらいです。』
『黒子っち抱いてるからコーフンしちゃってるんスよ。』
『…もっとオブラートないい方は無いんですか。』
照れる黒子っちに唇にオレのを重ねれば、ふって笑う黒子っちが愛しかった。
(ああ、幸せすぎて怖いって、こういうことなんスかね…)
本当に、幸せで。
このままがずっと続くって信じてる癖に、怖い。
手放したくなくて強く抱きしめた君の身体の体温を、失う事なんか信じたくないんだ。