黒子

□抱きしめたい程可愛い人
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チームなんて存在しない。酷く既視感を覚えるその高校のバスケ部を何故自分が選んだかといえば、正直押しに負けたのですとしか言いようが無い。
この、僕にしてみたら帝光中学の高校バージョンと取ってもいいだろう空間は、それでも中学の時みたいな嫌悪というか、方針に対する疑惑のようなものが浮かんで来ることは無かった。


それはチームがどうのこうのというよりは、単に僕が諦めて受け入れた結果だ。


だから、バスケに関しては、なんら問題は無い。
ただ僕の信念を根気強く主張はするものの、何だかんだと勝利への執念は自分もかなりある。だから努力するのだ。僕はキセキの世代の彼らと違って天才ではないのだから。





「おー、今日も早いな、黒子君。」

「今吉先輩…おはようございます。」

「おはようさん。」

早朝、僕は朝早く起きて学校へ行く。
早朝なら部員もまだ来ていないことが多くて、練習がしやすい。なにより僕は部活中はとことんパス技術の向上の為に時間を割くので、ドリブルやシュートの練習はこの時間位しか出来ない。
…まぁ、練習してもきっとそれを発揮する場面は来ないのだろうが、やっぱり出来ないのは悔しい。流石に基本であるレイアップは普通に出来ないとそれはバスケをする人間として恥だろう。

そして、そうして人がいない時に僕がこうやってシュートなども練習しているのを知ってるのは今吉先輩と、桃井さんと…あとは朝練に僕よりたまに早く来る若松先輩と桜井君位だろう。青峰君は朝練所か練習もたまにしか来ない。

…なのに何故か帰りは殆どの確率で会うのだけれど…


「どうや?シュート率は上がった?」

「…いえ、」



きっとこの人は分かってて聞いている。殆ど毎日欠かさず練習はしても、何故か成果はなかなか出ない。だからと言って諦めるつもりは毛頭無いのだが…



(今だけ、黄瀬君の能力が羨ましいですね…)


彼のように見ただけで出来るなら自分はシュートも、ドリブルも出来るようになれる。そうすればもっと自分は強くなれる。



―――青峰君の、好敵手のような存在に、なれる。



彼がバスケを楽しむようになれば、このチームは変わる。
昔の青峰君に戻れば、きっと、変わる。

まず青峰君の被害を蒙っている若松先輩と桜井君が楽になるのではないだろうか。そして桃井さんだって青峰君の監視の任が無くなりもっと自分のすべき仕事に集中できる。今吉先輩だって、本気の青峰君が何時も試合に出てくれるのだから万々歳だろう。

(…こう思うと青峰君って何処までもトラブルメーカーですよね…)

まぁ、彼は正直まだ我侭なおこちゃまなのだ。仕方ない。





「おーい。手ぇ止まっとるで?なんや、何か考え事か?」

「あ…いえ、ただ、どうすればシュート入るかな、とか…」

まさか非現実的な空想に浸ってました、なんて言えない。


「ふーん…そやな、まず黒子君は身長ないんやからもう少し力つけてちゃんとボールをゴールまで飛ばさなあかんわ。あと構え!」

そんな僕のでまかせ(まぁシュートが入らないのは事実だが)について真剣にアドバイスしてくれる今吉先輩に少し申し訳なくなる。しかしありがたい。

「構え…ですか?」

「そうや。なんか黒子君の、ちょっと不自然なんよな。」


そういいながら僕の方まで歩いて来ると、僕にボールを持たせて、そのまま後ろから僕の身体を覆うように合わせて来た。

…正直、凄く近い。


「ここ、ちょっと力みすぎやねん。力抜きぃ、な?」

「っ、はい…、」


先輩の手が僕の二の腕を握って固定してくる。背中から先輩の体温が伝わる。先輩が喋る度に耳に息が掛かる…っ!



視界の端で、今吉先輩の口角が、少しだけ上がった気がした。
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