黒子
□スタートラインは一番後ろ
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恋愛に時間は関係ないと言ったのは、一体何処の誰だったかなんか知らない。
知らないが、俺はその言葉に異議を唱えたい。
やっぱり、時間は関係あるよ。
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『完全復帰おめでとう。みんな楽しみに待ってたわよ。』
明日から久しぶりに部活に復帰できる、そんな夜にリコからそれだけのシンプルなメールが来た。
俺はそのメールにただ『ありがとう。明日からまた頑張るよ。』とだけ返した。
(…やっと、部活に行ける。)
ずっとこの日が来るのを待っていた。
――早くバスケがしたい。皆で練習したい。皆で試合がしたい。
その思いは部活から離れてから日ごとに大きくなっていった。
しかし、今年の春。その思いを凌駕する程の理由が出来てしまった。
始まりは、リコから渡された1本のテープ。
どうやら今年のバスケ部の練習風景らしい。リコが上機嫌で「今年の1年は凄いのが入った」と嬉しそうに笑っていたから、一体どれだけの奴が来たのかと俺も期待を膨らませてそのビデオを見る。
まず目に入ったのは同級生たち。こう見るとまるで先輩みたいな顔になってる気がする。いや、実際先輩と言う位置になったのだが。
そして次に入ってきたのは背の高い、赤い髪の男。
「なぁ、こいつ?リコの言ってた凄い1年って。」
「そうよ。それが一人目、名前は火神大我君。」
「“一人目”??」
「もう一人いるわよ。凄いの。なかなか見えないと思うけどね。」
「見えない…?なんだそれ、まるで帝光の幻の6人目みたいな感じ?『見えない選手』っていう…」
何の気なしに思いついた“見えない”のキーワードで出てきた噂の選手を上げてみると、リコが少し驚いたような顔をした。
「凄いわね!ドンピシャ!!正しくその『幻の6人目』がウチに来たのよ。」
もしかして知ってたの?なんて聞いてくるが、そんな訳ない。
まさか合ってるなんて思わなかった。というか、そんな選手は実際に存在してるかどうか怪しいとさえ思ってた。
帝光とは昔に対戦したことある。途轍もなく強かったが、オレが戦った時にそんな選手はいなかった。でも本当は存在していて、尚且つそんな選手がウチに入部してきた。
(これは…見てみたい…!)
きっと俺が知らないって事は俺と対戦した後にレギュラーになったのだろう。
是非見てみたい。
「…っと、もうこんな時間か。じゃぁ私用事あるから、またね!まぁ頑張って探してね。」
「あ、待って。その“6人目”の名前は…?」
「黒子テツヤ君よ。じゃぁね!」
そういって早足に出て行くリコの背中を見ながら、その名前を反芻する。
「くろこ、てつや君…ね。」
その日は目を皿のようにしてビデオにかじり付いた。
でも全然見つけれなくて、ビデオはドンドン先に進む。ストレッチや基礎練が終わって、残りはミニゲームだけになった時になっても、まだその“6人目”を見つけることはできない。
他の1年は全て確認して、残りはその黒子君だけなのだが…
―――と、ミニゲームに感じる違和感。
「何だこれ…」
パスの通り方が片方だけ異様だった。曲がったり、いきなり回ったり…。
そして、やっと見つけた。
…水色の髪の、透明な彼。
一瞬で、釘付けになった。