家宝

□君の瞳を独り占めしたいんだ
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木吉と黒子は実の兄弟である。名字が違うのはややこしい家庭の事情というやつだ。世の中、似てない兄弟だっている。
お願いだから中身は兄に似ないでくれ、というのが誠凛バスケ部の希望である。

そして、黒子と高尾は幼馴染みである。大変仲がよく、たまに誠凛まで迎えに来ては遊んでいるらしい。正確には連れ回しているらしい。

「テツヤ、おにーちゃんとは遊んでくれないのか?」

おにーちゃんはお前が大好きなんだぞー、寂しいんだぞー、と黒子を抱き締めた木吉。入院生活とおさらばして、復帰したら弟と薔薇色の生活を楽しみにしていた兄。
目撃したのは、テっちゃーん!今日はゲーセン行こうぜ!、と弟を誘う鷹だった。


昔々、黒子を見付けられるのは木吉だけだった。
それはそれでよかった、後をついて慕ってくる弟は可愛かった。今でも可愛い。そんな弟を独り占めできることに喜びを感じていた。
笑いかけるのも頼るのも自分だけ、守ってやれるのも自分だけ。

そんな日常は、高尾の出現によりあっさり崩れた。
影の薄い黒子を簡単に見つけられる高尾、同い年の二人はすぐに仲良くなった。高尾の熱烈なアプローチに黒子が負けて、それから付き合いが始まった。

「テツヤはおにーちゃんが一番好きだよな?」

「そうじゃなくて、オレが一番好きだよな?」

と、そんな調子でどっちがどれだけ黒子を好きなのか張り合っていた。
最後にはいつも、どちらが嫁にするかで揉めた。手がつけられない争いを静めたのはいつも黒子で、二人の服の裾を引っ張りこう言ったのである。

「喧嘩はダメです、仲良くしないと嫌いになります。」

そう、二人をじっと見て言ったのである。これは母の一喝よりきいた。
その度に、オレ達仲良しだよなー?、と白々しい演技をしながら互いに探りあっていたのである。

その関係は高校へ上がっても続いている。


兄弟の両親は、二人が会う事を許している。仲がいい二人を引き裂くのは胸が痛んだのだろう、事前に連絡を入れれば食事を食べに行ったり泊まったりすることも出来る。
明日は休みだから泊まりに来い、と木吉は黒子を誘った。兄弟二人で布団並べて寝る、という計画である。
さすがに二人でフロに入るのは辛い、男子二人では狭くなるからだ。それは合宿の時にやるとして、と楽しみにしている。

「明日は高尾君と遊ぶ約束をしたんですけど。」

「それならオレの家から遊びに行けばいい。」

「遊ぶついでに泊まりに行くって言ってましたけど。」

「テツヤ、狼を招き入れるのはやめよう。もっと気を付けような?」

お前は可愛いんだから、と頭を撫でる。撫でながら、ふわふわの髪の毛の気持ちよさにずっと触れていたくなる。
昔から寝癖がつきやすいとぼやいて、毎朝治していたのを思い出して頬を緩ませる。治すのはいつも木吉の役目だった。

「高尾君は狼じゃないです。」

「そうですよ、木吉さん。それに、オレが先に約束したんだって。」

だからもらっていきます、と肩を抱いて引き寄せる高尾。人前じゃやめてくださいよ、と抗議されても辞めない。
逆に、テっちゃん可愛いー、等と言っている。

「高尾君、弟を誘惑しないてほしいね。テツヤはオレのお嫁さんだ。」

「いや、オレの嫁ですよ。」

黒子を挟んでにこやかに笑っているが、一枚剥けば別の顔を見ることが出来るだろう。笑顔の裏の駆け引き、距離をはかり合って策を展開し、罠を仕掛ける。
大概はかわして不発に終わる。それは見越しての事だ、木吉も高尾も期待しちゃいない。

両者とも黒子に自分だけ見てほしい。
その為ならどんなに時間をかけても構わない、それだけの価値があると信じている。

「それなら、三人一緒にボクの家に来ませんか?」

兄の心も、幼馴染みの思いも知らない少年は無邪気に告げる。
鈍感なところも可愛いな、と思ってしまうのはしょうがない。



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