黒子
□気付いた途端に手遅れ(R-18)
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オレは、まさか自分がこれほどまでに馬鹿だったとは知らなかった。
常に人事を尽くしてきた。占いのラッキーアイテムを忘れたことなんか無かった。
…そんな勤勉で真面目に生きてきたオレに降って来た天命が…これなのか?
「だとしたら…天はオレの予想以上に醜悪な性格の持ち主なのかもしれんな…。」
「何、真ちゃん。占いの次はポエム?オレ195cmのポエマーな友達とか気持ち悪いから欲しくないんだけど。」
「ふざけるな高尾。」
「ごめんごめん、冗談だって!」
「オレはオマエと友達になった覚えは無いのだよ。」
「否定すんのソコ!?」
リアカーを弾きながらギャンギャン騒ぐ声を後目に、オレは盛大なため息を付いた。
今オレと高尾が向かっているのは海常高校。黄瀬の行った高校だ。
しかし間違ってもオレは黄瀬なんかを見に行くわけじゃない。
今日は、黒子の行った誠凛高校との練習試合があるとの情報を得たから、視察と銘打って今こうして向かっている。
理由は簡単明快かつ、途轍もなく馬鹿馬鹿しい。
オレは、黒子に報われない想いを抱いている。
この自身の持った気持ちに気が付いたのは中学3年の夏。全中の試合が終わり……そして黒子が部活をやめて姿をくらましてからだった。
気が付いた時には、黒子は黄瀬と所謂恋人関係にあった上に、オレは今まで自分はノンケだと信じて疑わなかった…というより、自分がホモだとか考えたことすら無かった。
オレは黄瀬が黒子を理由に入部して、黒子に認めてもらうために必至に練習して、何度も何度も黒子にアタックを繰り返して、とうとう黒子が黄瀬に落ちるまでをずっと傍観していたのだ。黒子のことを憐れに思いながらも、自分には関係ないことだと、部に支障が出なければ全く問題は無いと自分から関わることはしなかった。
だから青峰やキャプテンが黄瀬の邪魔をしているのを見て周りはホモだらけなのかとうんざりしていた時期さえある。
そして多少の変化が現れたのは、3年の春。黄瀬が黒子にもう何度目かの告白をして……黒子が了承した瞬間。
それは部活終了後の部室での事だった。
「黒子っち!今日もお疲れ様!!愛してるっス!!」
「…お疲れ様です。」
「あぁ、なんか冷たい!!ねぇ、返事は?オレ今告白したんスよ?」
「そんな挨拶みたいなので告白とか言われても信用なりません。」
ここまではいつもどおりの流れだった。
オレはまたかと思いながら自分の着替えに専念する。
因みに今部室に居るのはオレ、黄瀬、黒子とあと片付けをしていた数名の1年だけだ。
1年も流石になれたのか見てみぬ振りをしている。
「……じゃぁ、もっとちゃんと言ったら…黒子っちはオレのになってくれるの?」
いつもより真剣に、まるで黄瀬じゃないかのような声に1年だけでなくオレもびっくりした。
それは黒子も同じなようで、いつもの読めない目を多少大きくさせて黄瀬を見つめている。
「それは……、」
「…じゃぁ、さ、オレ先に出てるっスから、着替え終わったら体育館の横の手洗い場で待ってる。」
「ぇ、あ、きせく…」
パタンッ、と黒子が言葉を発する前に黄瀬は出て行ってしまった。
そのまま少しの間黒子だけでなくオレたちでさえ固まったまま動くことが出来ずにいた。
その重苦しい空気を最初に打破したのは、黒子だった。
「…あ、ごめんなさい。どうぞ緑間君も君たちも気にせずに…」
「あ、あぁ…」
“気にせずに”といいながら黒子自身が一番先ほどの黄瀬の態度を気にしているのは明らかで………
…そのときの黒子は、心しか赤かった。
その表情を見て、何故だか胸がむかむかとした嫌な感じに苛まれたが、その理由をこのときはまだ知る由も無かった。