黒子

□抱きしめたい程可愛い人
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その先輩の表情に、嫌な予感を感じた瞬間に先輩の横っ腹にものすごい勢いのボールが直撃した。


「おぶぁ!!!」

「せ、先輩!?」

流石に痛みに呻きながら床を挨拶している先輩を心配すると、体育館入り口から何時もの焦ったような口調の声が聞こえた。


「あぁ!!す、すみませんすみません!!来たとき誰かが黒子君を襲ってると思って助けなきゃと思って!まさか先輩だったなんて気が付かなかったんです!!すみませんすみません!!でも黒子君の貞操が最優先だったんですすみません!!!」

「ワシは別に黒子君襲ってないっちゅーねん…」

「あぁ!!すみません!でもなんか表情が変態のようだったので!!すみません!!」

「変態!?てか桜井お前表情が見えとるならワシやってわかっとるやろ!?」

「すみません!ごめんなさい!すみません!」

「謝りながら黒子君の腕のワシが触った所だけ拭くなや!!何や、ワシは病原菌か何かか!?」

「すみません!!黒子君が変態に穢されると思うと身体が勝手に動くんです!すみません!!」

「ええ加減ワシを変態扱いするのやめろや!!謝ればなんでも許される訳ちゃうねんで!!?」

目の前で二人が言い争いながらも、桜井君の腕は未だに僕の腕を拭くように動いている。
その力が以外と強くて痛い。そう彼に伝えたいがこの激しい攻防の中に口を挟む勇気も無い。
一種の漫才のようにも見えるが…なんか二人とも目が…恐いです。


「すみません!!でも黒子君が他の人間に触られているのだけは我慢ならないんです!!」

未だ痛みに蹲っている今吉先輩にそう言うと、桜井君が僕に正面から抱きついてきた。童顔な桜井君だが、やっぱり僕より背はあるし、筋力も僕より上だ。僕は桜井君の腕の力に逆らう事も出来ずに、そのまま桜井君の腕の中に納まった。
そのままぎゅうぎゅうと力を入れるものだから、正直物凄く苦しい。

「さ、さくら、い君…苦しっ、」

「あぁ!!ごめんなさい!!」

苦しいといえば腕の力を抜いてくれたので苦しくは無いが、それでも抱きしめたまま離す気は無いらしい。

「ごめんなさい!苦しかったよね黒子君。本当にごめんなさい!」

半泣きで謝ってくる桜井君に半ば呆れながらも、とりあえず離して貰おうと口を開いた瞬間、桜井君の手が僕の背筋をつつつ…と腰まで撫で下ろした。

「ひゃぁ!!」

「…」

「…」




(は、恥かしいっ!!!)




思わず変な声が出てきた。
いや、あれはタイミングが悪かっただけです。ちょうど口を開いた所だったから…あと僕が背中くすぐられるのが苦手だから。悪条件が揃ってしまった故の不可抗力です。

心の中で言い訳をするも、この沈黙で言葉を発せない。

今吉先輩のきょとん顔がいたたまれない。


「黒子君…背中弱いんだね…」

「え?」


小さく、僕にしか聞こえないように桜井君がそういうと、彼の手が再び僕の背中を撫でた。

「っ!」

今度は我慢できたが、そのまま撫で続ける桜井君の手がくすぐったい。

僕の頭の上で彼が小さく笑ったような気がして、背筋を嫌な汗が流れる。

「ちょ、桜井お前ええかげんに…」





「おい桜井!!!テメェ何してんだ!!!」



今吉先輩の声を遮るように朝の体育館に響いた響いた声に、強張っていた力が抜けた。
その声を発した主はずかずかとこっちまで来ると、僕と桜井君を勢い良く引き離した。その表情は、心底怒っているように歪められている。


しかし引き離された瞬間、本当に小さく、舌打ちの音が聞こえた。


…その音の主が桜井君なのか、はたまた助けてくれた人…若松先輩なのかは、僕には解らなかった。
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