黒子

□スタートラインは一番後ろ
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どう表現すればいいのかわからない。
限りなく薄いし、無駄な動きもない、いたってシンプルなバスケ。


ただ…目が、離せない。





「いや、離したくない…か?」


部屋に自分の独り言だけが虚しく響くのにも構わずに、オレはただその“黒子くん”をずっと見ていた。

元から薄い存在感をさらに薄くして、パスの中継役になっている彼。
そんな事とても面白いとは思わないのだけど。バスケはやはりシュートを決める時が一番嬉しいし楽しいだろうと思う。いや、実際そうだろう。
その思いのとおり、彼は決して楽しそうにバスケをしている様には見えなかった。






『なぁ、黒子君って、パス以外してなかったけど、シュートとかの技能はどうなの?』

ビデオを見終わって、リコにメールで質問した。
返事は直ぐに来た。どうやらパス以外はからっきしらしい。素人に毛が生えたレベルって…。それはまた予想以上に酷い。

その日から何度もビデオを見て、ずっと黒子君に目を配らせた。
ほとんど毎日のビデオをリコがまとめて渡してくれるから、少しずつではあるが他の1年や同級生たちの成長も見て取れた。



…黒子君、以外は。



彼は成長しない。というか、周りの力が上がれば強くなる。彼自身の強さじゃない。
あいかわらず、パスの技術はすばらしいが、彼のみだと発揮されない。

なんだか、自分を殺しているように思えて仕方なかった。周りに合わせたバスケじゃなくて、自分が楽しいバスケをしてほしいと思った。



ビデオをずっと見ていた。彼の力や、彼の性格もなんとなくわかる。
そして…彼が一体どんな人間と一緒にすごす時間が多くて、一体誰をより信用しているのかも、見ているだけでもわかる。



ポーカーフェイスに見せかけて結構感情が顔に出やすい。
火神大我の潜在能力を高く評価し、信頼している。
よく、自分の事を後回しにしがち。




…困ったとき、結構日向を頼る。




(…なんだこれ、)


ビデオには練習中の休憩時間の時もついでのように写っている。
その時によく黒子は火神と話すか、降旗や他の一年と話すか、…なにか日向に聞いている。
そのたびにいきなり声を掛けられてびびった後、表情を…多分無意識だろうが、綻ばせて黒子の話を聞く日向が何度も写っていた。



(なんか…ムカムカする…)



そりゃ日向はキャプテンだし、しかもキャプテンに推薦したのはオレだし、なかなか頼れる男なのはオレだってわかっているけど…、






「あー…早く部活復帰したいなぁ…」





彼に、頼ってほしい。と思う。
彼の声を直接耳に入れたい。彼の視線が自分に向いて欲しい。



―――黒子君と接するあいつらみたいに…彼と、話がしたい。





なんでこう思うのかよくわからないけど、きっと自分の可能性を自ら潰しているような彼のバスケが居たたまれないのだ。
自分の大好きなバスケを、あれだけの特別な才能を持っている人間が本当に楽しくできていないのが、悲しいのだ。





それだけだと思ってた。
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