□紫雨の闇
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「…―如く。…陸奥来たりて闇夜のォ―…」
―上質な衣を畳に擦り舞う。手は生者の気を纏っておらず。優美な手付き、腰には徒ならぬ色香を漂わせ神秘に舞っている。微かな衣擦れの音と時々吐息が漏れる薄桃色の唇に男共は釘付けだ。
「…」
大名の酒席。謁見して頂きたいとは名目、強制的な申し出に主君の代わりに俺が赴いた。
俺は齢26と若年層の為今迄散々苛まれてきたが、実力を認めて貰った今ではとうに昔の話だ。
「………」
無表情に見ていた俺に気が付いたのか、目の前の遊女は舞いながら恭しく近寄り投げ出した右足の甲に下品に尻を擦りつけて来る。
尻の割れ目を擦る様に俺の指先に当てがうと微かな嬌声をあげた。
おお…!と、どよめきが沸くが先程までと打って変わり、明らかに情事を含んだ舞いに嫌気がさす。
―なんの趣向だ。馬鹿らしくてやってられねえ―
立ち上がり女を退かすと「きゃっ」とめざらわしく啼く。冷眼で一蹴した俺は大名の方へ向き直った。
「…失礼する」
しん…とした大名達に頭を少し下げ、宴を後にした。
少し廊下を歩くと会席で先程の浅ましい女の叫び声。何があったかは知らねぇが、泣き喚け。
爺共が側室如きで満たされるわけがない