□鏡張り
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…同じ会話の繰り返し。耳元で囁かれ、仄かな甘い香は鼻孔をくすぐる。



「貴方から見た今のオレ自身は、どのような存在ですか?」


『脆く、弱々しい。とてもではありませんが俺にふさわしくない』



「…オレにとって貴方は鬼ですよ。純粋に人を殺戮する事が、好きな」




まるで男婦の様な雰囲気を醸し出しながら妖艶にゆっくり布団に押し倒され手に手指を絡め慈しむように口付けてゆく。指先、掌、手首。



『それならば、戦に赴き俺以上に人の痛みに悦を感じた昔の貴方は一体何処へ?…嗚呼、貴方はあの時から変わってしまいました。あんな小事で…俺に押し付けて貴方一人、何時迄逃げるおつもりなのです?』


「っ、………!」


顔を逸らしたオレの両頬に手を添え強引に唇を合わせる。逃げる舌を絡めとり吸い上げ深く口内を蹂躙する。






「んっ…!…ふ…っぁ、……」





淫らな水音が部屋に木霊する。腰が砕ける濃厚な口付けをしたかと思えば潔く放す。オレは縋る様に奴の着物に手を掛け、必死で息を整えた。



「…っぁ…っ、はっ、はぁっ…」


『いいえ…そうです。だから抱かれる時だけ、貴方と俺は変わっているでしょう?』



 
「……なにを……、言いたいのですか…?」



指先で俺の髪を絡め匂いをする緩慢な動作をし少し横に首を傾げる。



『…獅怜や漱明に抱かれる時も貴方は痛みを強要する。段々貴方は自虐的になり、反対に段々俺は残虐に。俺が殺す行為を貴方は何とも思わない。でも俺は貴方の痛みを嫌々共有しなくてはならない。理不尽ですよね?俺は痛める事が好きなのに』



「………」


言い返せず押し黙る辛辣な言葉の羅列。



『貴方一人の身体では無い事をお忘れなく…貴方は邪魔です。まあ、いずれ俺が殺してあげますけどね』


そう言った俺は首もとに顔を埋め耳元で囁く。ひんやりとした外気が間を駆け抜けぶるりと身体が震えた。


『…昔は一緒でした…何をするにも俺と貴方は一体で、ずっと一つだったのに何故こんなにも貴方と俺は、』



―――変わってしまったのですか?

























 

―――



眼が覚める。先程迄行為をしていた男を見る事なく起き上がり。着物に腕を通し、腰に帯を纏い鬱血痕を隠す。そして先程の朧気で、また鮮明な夢が脳裏に蘇った。



「今のオレは、一体…」


―どちらなのだろうか?






返事が返ってくる、事は無い。





end.

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