お礼 瑞垣
「…―!!」
人間、本当にピンチになると上手く声を出すことができないらしい。
とにかく、急いでそこを出て、携帯であいつを怒鳴りつけて、待ち合わせ場所へ向かった。
脚力には自信があるので、猛ダッシュで行こうとも思ったが、激しい運動は控えなければ。
ああ、頭が爆発しそうだ。冷静になれと念じるほど焦る。
私が待ち合わせに着いた時、俊二はすでに来ていた。私の鬼気迫る呼び出しにさすがに慌てたらしい。
「俊二」
「おー、で、何?大事な話って。まさか、別れたい、とか」
本気で心配している俊二に少し焦りがおさまる。
「…いや、別れたくても別れられなくなったというか」
「あ?」
胸ポケットからタバコを取り出す俊二の何気ない行動に、私は顔を真っ青にした。勢いよく俊二の腕をがしっと掴む。副流煙!
「…何や」
「タバコ、喫煙、ダメ、ゼッタイ」
「何でカタコトになっとんのや。大体それ今更やし、俺が幾つやと思ってんだ」
呆れつつも胸に戻す俊二にほっとする。というか19歳なんだからまだ違法だ。
それにしても、
…ああ、今から私は何て嘘みたいなことを告げなければいけないんだろう。緊張してきた。腹が痛い。
「み、未成年だから、とか、そういう理由じゃなくて」
「は? 何やさっきから変な顔して」
なんと言おうか迷う。こういうときはストレート?遠まわし?ああ日本語力のない自分がニクイ!
こうなるのならお母さんに相談してからにすればよかった…。
「…」
なかなか言い出せない私を、俊二は待ってくれた。
「…あ、あのね」
「ん?」
「…………はあ、もうやだ…」
一方的に落ち込む。それでも、伝えるべきことは伝えなきゃ。
「…俊二!」
「…はい」
「…俊二の赤ちゃんができました」
俊二は、しばらくぼおっとし、何か考えるような顔になり、その顔に明らかに苦虫を噛み潰したような表情が生まれ、その後、ため息をついた。
「多分、本当に、俺のやな」
「ああああたりまえじゃん!…身に覚え、あるし」
「俊二のせいだからね!」
「いや、そればっかりは否定できんな」
「もう、どうすんのさ!?ちょっと体調悪いと思って病院行っただけなのに、いきなり三ヶ月とかもうありえない」
「…あーあ」
気だるそうにもう一度ため息をついた。どうせ面倒くさいとか思ってるんだろうな。
「…まあ、順番が逆になっただけだからええわ」
俊二はごそごそと、ズボンのポケットをさぐる。
「手え出せ」
「は?」
素直に言うことを聞いて手を出すと、ちょこんと乗せられた。
「…な、にこれ」
「指輪」
いやそんなことは知ってるけど!などと突っ込む余裕もなく、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「…う・・・い、いきなりすぎ…」
「いつ渡そうか迷っとった。まあ、婚約指輪が結婚指輪になるだけやな」
「…だけって、何さ」
でもそんなの大事なことじゃないのかもしれない。私ってゲンキンなんだろうか。
さっきとは逆に、名前を呼ばれて、私ははいと返事をした。
「結婚してください」
「…はい」
でき婚でも文句なしに幸せだと思う。
私と俊二と、誕生した新しい命。三人で、幸せになれたらいいね、と言うと、俊二はそうやなと笑った。
おまけ
「…とりあえず、親父さんとこ行かんとあかんな…歯の一、二本は覚悟やな」
「しゅ、俊二」
その日、予定通り(?)お父さんに拳で殴られても頭を下げ続けた俊二に、私はまた惚れ直してしまった。