Novels(with G)

□芽生え
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 『なんか、2人並んでると幼い兄妹みたいだなぁ。』
 僕と彼女を見たバイト先の友人にいつかそんなことを言われた。 男にしては165cmと背の低い僕と149cmと小柄な彼女が並ぶと、なるほど、そう見えなくもない。年も少し離れていることや、僕がよく彼女を世話をしているということもそれを後押しした。

 彼女と出逢ったったのは僕がバイトでスタッフとして働いているコンサート会場に彼女が新人スタッフとしてやって来た時。キャリアの長い僕が新人の彼女とペアを組んで働くことになったのだ。コンサートスタッフの仕事というのは想像以上に忙しい。その忙しさの中で時折荒っぽくなる僕の口調にも彼女はめげずに対応してくれていた。素直に「かわいい」そう思っていた。でも正直言ってこの時の僕には彼女に対する「恋心」というのはまだ現れていなかった。

 そんなある日のこと。あるコンサートの打ち上げ会場で、いつものように僕と彼女は何気ない会話を交わしていた。いつも一緒にいるせいか、僕と彼女は自然と同じ時間を共有することが多くなっていた。
 グラスを傾け、2人で立ち話をしていると、僕のバイト先の友人が僕達の元へとやってきた。
「おぅ、お前らまた一緒か?」
ニヤニヤしながら友人は言う。僕も彼女も呆れて何も言えずにいると、
「なんかさぁ、お前ら2人が並んでると、幼い兄妹みたいだなぁ。」
決して友人に悪気がないというのはわかっていた。たぶん率直に思ったことを言っただけなのだろう。しかしその時、なぜだか自分でもわからないけれど傷ついた。「せめて『恋人同士に見える』くらいに言ってくれてもいいだろ。」と。
 そしてこの時、僕は彼女に対する「恋心」というものをハッキリと自覚せざるを得なかったのだ。自分の気持ちに気付いた瞬間、すぐ右隣にいる彼女を意識してしまい、右腕が熱くなってくるのがわかった。心なしか顔も赤くなっているような気も。
 しかし彼女は友人の言葉を受けて、高鳴る僕の胸の鼓動をよそに、こんなことを口走った。
「やっぱりそうですか?私も安岡さんも背割と低いし…。これから安岡さんのこと『お兄ちゃん』って呼ぼうかな。」
僕は愛想笑いしかできなかった。
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