Novels(with G)

□微笑み
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『酒井くん?…私、さやかだけど。』
『おぉ、どうした?』
『今から出て来れない?話があるの。』
『あぁ、いいよ。…じゃあ。』
 そんな会話をして、僕は受話器を置いた。
 彼女の話の内容は大体想像がついている。そしてその話が、また僕を傷つけることになるということも…。

「アキラのばかー!!」
 僕と顔を合わせて10秒足らずで、さやかは叫んだ。
「酒井くん、あのね、もうアキラから1週間も連絡ないのよ!?私…捨てられたのかなあ?」
真っ赤に目を腫らしたさやかは膝を抱えて言った。さやかを抱き締めたい…そんな欲望を押さえつける。
 さやかは僕の友人アキラの彼女、いつのまにか僕はさやかの相談役になっていた。好きなのに、どうしようもない。
「そう落ち込むなって。海外赴任してまだ1週間だろ?向こうの生活に慣れるので精一杯なんだよ、きっと。そのうち連絡くるって。」
「でも…。」
彼女はまた泣き出してしまった。
「泣くなって…。」
 慰めながら、僕は「このままさやかを自分のものにできたら…」なんてことを思っていた。彼女の泣き顔を見るくらいなら、いっそのこと…。
 しかし、小心者の僕は気持ちとは裏腹にこんな言葉を発してしまった。
「元気出せよ、アイツがお前のこと捨てるわけないじゃん。アイツほどお前のこと想ってるやついないよ、俺が知ってる。」
言い終わった後でひどく後悔した。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、さやかは伏し目がちで
「私…酒井くんのこと好きになってたら…良かったかな。」
と言った。心が激しく揺さぶられる。
「…バカ、そんなわけないだろ。」
朦朧とする意識の中。
「…ありがとう、酒井くんに聞いてもらったらスッキリしたよ。」
そんなさやかの言葉だけが、耳に残った。…また、苦しくなった。
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