Novels(with G)

□ふたり
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「なぁ、めぐみ。明日何の日か憶えてるか?」
 普通なら、こういうのは女の方から聞くもんなんだろうけど…まぁいいや。
「何よてつや…いきなり。え〜…っと、12月23日でしょ?…あ、天皇誕生日?」
思わずズッコケた。
「そうだけどさ〜…違くて〜…。」
焦らされている俺を尻目に、めぐみはソファの上に座っている俺の膝の上に向かい合わせに座り、イタズラっぽく微笑んだ。
「ウソ。ちゃんとわかってるってば。2人で暮らし始めてちょうど1年目の記念日でしょ?」
そう言って、俺の唇に優しく甘くキスをした。

 そう、あれはもう半年も前のこと。
 相変わらず彼女は俺の傍にいる。でも彼女は、最近笑ってくれない。理由はわかっていた。俺は仕事が忙しくて、ほとんどめぐみにかまってあげられていなかった。淋しい思いをさせているのも分かってた。でも俺は不器用で、めぐみを安心させてやれるような言葉を知らない。どうしたらいいのか…わからなかったんだ。

 そんなある日のこと。珍しく俺が家にいて、めぐみが外出した日があった。最初の2、3時間は結構有意義に過ごせたように思う。でも、いつの頃からか俺の心には淋しさが溢れていた。
 たった独りきり。静寂しかここにはなかった、静か過ぎてうるさいくらいに。子どものはしゃぎ声、車の音…いつも聴こえる音という音が、今日はなぜか聴こえない。
『孤独』
 その2文字が頭をよぎった。めぐみはずっとこんな気持ちで…。それも1日じゃない、何日も何十日もこんな気持ちを抱えて、毎日俺の帰りを待ってたんだ…。
 堪らなく切なくなった。たった数時間離れただけなのに、今こんなにもめぐみが恋しくて愛しくて堪らない…この手で抱き締めたい…。
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