Novels(with G)

□距離
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 ハッキリ言って、俺には遠距離恋愛なんて無理だと思っていた。それでも数百キロ離れた所にいるカエと続いているのは、やっぱりお互いがお互いを愛しているからなのだろう。
 大学卒業後、東京での就職を決めた俺はカエを連れていく気でいた。経済力はまだないとしても、ただ傍にいてほしかったから。
 しかしカエは
『一緒に行くことはできない。』
と俺に告げた。
『こっちでやらなきゃいけないことがあるの。』
それが理由だった。
 そして俺達は何度も話し合って、互いの気持ちを確かめ合い、遠距離恋愛をすることに決めた。カエを想う自信はあったけれど、俺にはただ1つ気になってしょうがないことがあった。それはカエの「こっちでやらなきゃいけない」ということの意味。何度聞いても、そのことにだけはカエは口を閉ざした。

 4月。俺の誕生日にはカエからのプレゼント、バースデーカードが届き、電話もあった。

 5月。ほとんど毎日電話で話した。でも社会人として駆け出しの俺は忙しくて、カエに会いに行くことはできずにいた。

 6月。電話は2日に1度へと減っていった…俺のせいだった。仕事に慣れていくに従って残業も増え、家に帰ってもすぐ寝る、そんな生活だった。

 7月。電話は3日に1度、4日に1度と確実に減っていた。いつしか俺は自分からは連絡せず、カエからの電話を待つだけになっていた。

 そしてこの8月。相変わらず電話で話す時間は少ない。
 こんなに時間が経ってから、俺はやっと気付いた。
『俺はカエを愛してる。離したくない。』
と。だからカエに会いに行こうと決めた。カエの今の気持ちを確かめ、俺の今の気持ちを伝えるために。電話なんかじゃ伝えられない、心からの想いを。
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